春らしさを感じられる日が少しづつ増えてきました。
今回は、交通事故事件で活用できる便利ツールの一つ「調査会社」についてご説明してみようと思います。
1 交通事故事件には、大きく分けて物損事故と人身事故があります。
警察官は、人身事故であれば、それなりの実況見分を行い、それなりの実況見分調書というものを作成してくれます。「それなり」というのは、警察によって精度にばらつきがあり、特に、大した事件ではないと判断されている場合には、いい加減な内容の調書が出来上がってくることも時折見受けられるからです。
ですが、そうはいっても、実況見分調書を作成してもらえるのはありがたいところです。事故時の客観的状況が、警察の作成した書面という形で残るからです。そこに記載してある事情は、事故後に動かすことは容易ではありません。
2 これに対して、物損事故ということになると、話は違ってきます。
物損のみの事故の場合、警察官は実況見分調書を作成しません。なぜかといえば、明らかに過失の物損事故となると、過失器物損壊罪を罰する規定がないことから、刑事処分の対象ではないからです。人身事故の場合は、自動車運転過失致傷罪(刑法211条2項)等の刑事罰の対象となっているため、実況見分調書が作成されるわけです。
実況見分調書が作成されないとなるとどうなるか、といえば、事故時の客観的状況を把握できる証拠が残らないことになってしまいます。もちろん、実況見分調書も万能ではありませんし、上述したような問題点もありますが、やはり、事故時の状況を把握できる証拠がないというのは大きな痛手です。
3 そこで、特に物損事故の場合に、活用できるのが「調査会社」ということになります。
調査会社は、いわば警察による実況見分と似たようなことを、代わりにやってくれる会社です。内容としては、依頼者への聞き取りに始まり、現場の写真撮影、事故時の車両の動きをシュミレートしたもの、客観的状況と聴取内容との整合性に関する意見等を作成してもらえます。場合によっては、被害者・加害者双方から事情を聴きとって書面化することも可能です(もちろん、相手方が応じた場合に限りますが)。
このようにして、調査会社が、調査結果を作成してくれます。
4 さて、この調査結果ですが、どのように活用できるでしょうか。
一番は、事故のイメージを持ちやすいという点が上げられます。弁護士も、話を聞き、現場へ実際に赴き、事故のイメージを作ることが必要であればもちろん行いますが、それを他人に伝えるのは難しいものがあります。その点、調査結果という形で残されていれば、例えば訴訟になった時には、裁判官へイメージを伝える、有効な手段の一つになるのではないかと思います。ただし、実況見分調書とは違い、一方当事者が依頼して作成するというものではあるので、裁判所がそれだけを基に事実認定をするということはあまりないと思います。
また、過失割合に争いがあるような場合、調査会社の調査の結果、一方の言い分が明らかに客観的状況と整合しないなどという結論が見いだせる可能性もあります。もちろん期待しすぎるわけにはいきませんが、打開策の一つとしては十分検討に値するかと思います。
反対に、訴訟になった場合、事前に、こちらが不利であることを発見できるといった点もあります。これでは訴訟になっても勝てる見込みが低い、ということになれば、訴訟前に示談してしまうのが妥当ということになります。
5 以上、調査会社を利用することを検討する場面について、説明させていただきました。
過失割合等に争いがある場合は、当事者で話し合いを進めても、水掛け論になりがちです。そういう場合は、他に検討できる証拠がないのか、調査会社利用の可能性等について、第三者の意見を聴いて検討してみるのも良いかと思いますので、ぜひ弁護士にご相談ください。
なお、弁護士法人ALGは、グループ会社に調査会社を持っています。(東京探偵社AI)
弁護士 水野太樹