1 労働能力喪失表とは

 後遺症による労働能力喪失の程度は、後遺症の部位、程度を労働基準監督局長通牒(昭和32年7月2日基発551号)別表労働能力喪失率表に当てはめて評価されることがあります。
 しかしこの基準自体は、労災補償のためのものであって、交通事故のためのものではありません。そのため、交通事故の損害賠償の算定において、ここ具体的な現実に応じて労働能力の喪失の程度を考慮する余地があると言えます。

 この点、判例は、後遺障害を算定するにあたって、

「労働能力喪失率が有力な資料となることは否定できない。しかし、損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を補填することを目的とするものであるから、被害者の職業と傷害の具体的状況により、同表に基づく労働能力喪失率以上の収入の減少を生じる場合には、その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できるこというまでもない。」

としています(最判昭和48年11月16日裁判集民事110号469頁)。
 以下に本事案において、どのような事情を考慮して、どの程度の労働能力喪失率を認めたのかをご紹介します。