交通事故により怪我をした場合、相手方が任意保険に加入していれば、通常、治療費については、相手方任意保険会社が直接医療機関にこれを支払われます。これをいわゆる一括対応と言います。

 通常、自動車保険は「自賠責保険」と「任意保険(対人・対物賠償保険)」の二階建てになっているところ、自賠責保険に対しては、①被害者が支払った治療費等につき、後から(領収書等必要書類を提出して)これを請求し、その補填を求める方法(被害者請求)と、②相手方保険会社等の加害者が、被害者に対し支払った治療費等につき、(必要書類を提出して)自賠責保険に請求する方法(加害者請求)の二つの方法があるのです。

 一括対応は、加害者請求により回収可能な分を含め、予め任意保険会社が立替払いをすることにより、被害者の手続負担・金銭的な負担を軽減するサービスなのです。

 いわゆる「治療打ち切り」は、この一括対応を今後は行わないという旨の相手方保険会社の宣告と言い換えてもいいでしょう。交通事故に巻き込まれたことがある方の中には、「症状固定」と言われ、まだ痛みが残っているのに、その後の治療費支払いを拒否された経験をお持ちのかたもいらっしゃることでしょう。

 これは、「症状固定」が、“傷害”と“後遺症”を区別するものであるからです。

 交通事故における症状固定とは、「傷害が治ったとき」、すなわち、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法(=療養)をもってしても、その効果が期待しえない状態(=療養の終了)」であり、かつ、「残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(=症状の固定)に達したとき」と定義されます(障害認定必携第15版p67~68)。

 ここにいう療養での効果とは、症状そのものの改善を指すものであり、対処療法的な疼痛ケアだけを目的とした場合、それは後遺症・後遺障害の問題となるのです。

 交通事故を含め、身体に傷害を負った場合、全く事故前と同じ状態に回復するとは限りません。多くは何らかの痛みや傷痕を残すことになるでしょう。

 後遺症は、これらを含む広い概念であるのに対し、後遺障害は、①負傷または疾病(=傷病)がなおったときに残存する当該傷病と相当因果関係を有し、かつ②将来においても回復が困難と見込まれる(=永久残存性)精神的・肉体的な毀損状態(=障害)であって、③その存在が医学的に認められ、④労働能力の喪失を伴うものと定義されます(障害認定必携第15版p67)。

 すなわち、治療終了後も残存する症状(後遺症)のうち、一定要件に該当するものについては、「後遺障害」として、傷害部分とは別途損害賠償の対象として算定されることになるのです。

 このような区別の下、治療費や入通院慰謝料等として請求すべきものか、はたまた後遺障害として、後遺障害慰謝料や逸失利益を請求すべきものかの判断を行う必要があります。もちろん、症状の軽重によっては、一定程度の症状が残存していたとしても、後遺障害との認定までは困難とされることがあります。この場合、後遺障害にかかる請求は困難でしょうし、症状固定後の治療費も請求は困難となります。

 ただし、自賠責保険における後遺障害認定が得られないものの中にも、訴訟においては、一定程度損害賠償において考慮される場合もありますので、これら判断を行うにあたっては、弁護士に相談してみることをお勧めいたします。