今回は失業者の逸失利益に関する裁判例をご紹介いたします。

 交通事故によって後遺障害を生じた場合には、逸失利益という損害(後遺障害を負ったことによって、労働能力が喪失ないし低下したために、将来得られたはずの収入が得られなくなった損害)が発生します。逸失利益は、基本的には、事故前の収入を基礎にして、当該障害の程度により算定されることになります。

 そこで、逸失利益に関して、事故前の収入が失業によって存在しなかった場合に基礎となる収入をいかに算定するかが争点となり、今回はこの点に関して判断した裁判例をご紹介いたします。

 京都地裁平成23年5月10日判決は、当時生活保護受給者の男性(症状固定時47才、右肩関節機能障害)について、算定基礎となる収入については,賃金センサス・男性・大学全年齢平均の7割としました。

 被害男性は、事故時うつ病で入院していたものの、クリニックに通院しつつも高校・大学を卒業し就職したことがあったことや、精神状態も実際に軽快した様子が窺えることから上記基礎収入を認定しました。

 また、福岡地裁平成18年9月28日判決は、当時無職の男性(症状固定時28才、高次脳機能障害)について、比較的若年であることや従前は正社員で働いたことがあること、介護士となるべく専門学校への進学が決まっていた事実から労働能力及び労働意欲があることを認定し、賃金センサス・男性・大学全年齢平均を基礎収入として認定しました。

 いずれの裁判例も具体的な状況を認定して、就労の蓋然性が認められるかを判断しています。