1 はじめに
こんにちは、弁護士の辻です。
損害賠償請求において、根拠条文となるものは何種類かありますが、その中でも、交通事故に特有のものとして、自賠法3条の運行供用者責任があります。
今日は、この運行供用者責任について、簡単にご説明したいと思います。
2 運行供用者責任
自賠法3条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」と規定しており、実際に自動車を運転していた者だけでなく、自動車の運行に対する間接的な支配や支配の可能性があるものも損害賠償の責任を負うとしています(※人身傷害部分です。)。
ここでいう「運行供用者」とは、①運行について支配し、かつ、②運行の利益が自らに帰属するものをいうとした判例があります(最高裁昭和43年9月24日判決集民92号369頁)。
一般的には、車の所有者であれば、運行支配を有しているとされ、運行供用者に該当することが多いです。
3 盗まれたら・・・?
では、車の所有者であれば、必ず運行供用者責任を負うのでしょうか。
明文の免責事由である3要件(①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったこと。)があれば、当然責任を負いません。
また、それ以外にも車を盗まれた後、盗んだ者が事故を起こしたりした場合など、運行支配や運行利益が所有者にないと判断される場合にも、責任を免れることがあります。
具体的には、客観的に第三者の自由な立入りを禁止する構造、管理状況にあったタクシー会社の車庫に、ドアに鍵をかけず、エンジンキーを差し込んだまま駐車されていたタクシー自動車を窃取した者が起こした事故について、「本件事故の原因となった本件自動車の運行は、訴外A(=窃取した者)が支配していたものであり、Y(=所有者)はなんらその運行を指示制御すべき立場になく、また、その運行利益もYに帰属していたといえないことが明らかである」として所有者の責任を否定した判例があります(最判昭和48年12月20日交通民集21巻9号2512頁)。
4 なぜ運転手以外も責任を負うことになったのか
自動車社会において、自動車事故は、不可避的に発生する社会悪的弊害と言われます。運転手以外も責任を負う形で立法がなされたのは、このような事故に遭ってしまった被害者が、運転者に損害賠償を請求しても、その者の賠償能力があまりないため、十分な賠償が受けられず、泣き寝入りをするという問題を是正するためとされています。