1 はじめに

 こんにちは、弁護士の辻です。

 加害者から、被害者の方に、治療費や休業補償と言った名目ではなく、見舞金という名目で金銭が支払われることがあります。また、被害者の方が亡くなられた事案では、加害者が香典という名目で一定額の金銭を支払うことがあります。

 これらは社会儀礼的に行われるものですが、法的にはどのように取り扱われるのでしょうか。支払われた額が、最終的な賠償金の額から差し引かれることになるのかについて、実際に見舞金や香典が支払われた裁判例を見ながら説明したいと思います。

2 裁判例

 2歳の男の子が、道路を横断しようとして、車に轢かれ、後に死亡した交通事故で、加害者は、事故後まもなく見舞金として30万円を支払い、死亡当日に香典として30万円を支払ったという事案です(大阪地判平成5年2月22日交民26巻1号233頁)。

 裁判所は、見舞金については、被害感情をいささかでも軽減するために支払われたものというにはやや高額であって、損害填補の趣旨を含まないとすることは困難であり、損益相殺の対象とするべきであるとしました。

 他方で、香典については、その金額から、社会儀礼上、関係者の被害感情をいささかでも軽減するために支払われたものと解され、損害を填補する性質を有するとはいいがたく、損害から控除することはできないとしました。

3 検討

 上記裁判例では、見舞金については、損益相殺の対象として損害賠償から控除するとし、香典については、控除しないとしましたが、それは見舞金であること、香典であることのみを理由とするものではありません。どちらも、社会儀礼と照らし合わせて、高額な場合には損害額から控除することがありうると言えるでしょう。

 もっとも、香典の場合、被害者を死亡させてしまったことの重大さから、一般の交際関係の香典の相場を超えるとしても、損害額からの控除をすべきだとはしない傾向にあります。
 実際、香典が100万円であっても控除しなかった裁判例があります(東京地判平成7年7月26日交民28巻4号1101頁)。
 なお、厳密に言えば、法的には、損益相殺の対象となるかというよりは、弁済といえるかどうかの問題であるというべきでしょう。

4 まとめ

 最終的に示談する際、損害額がいくらなのか、そこからいくら弁済があったのか、その弁済は、損害額から差し引くことが妥当なのか、難しい問題もあります。
 賠償案が提示され、わからないことや、賠償案が妥当なのか相談したいときには、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。