逸失利益とは消極的損害の一種であり、後遺障害事案では被害者の身体に後遺障害が残ったことにより労働能力が失われ、これにより将来得られたであろう収入の減少や、死亡事案では被害者が死亡しなければ得られであろう収入などを指します。
年金受給者が交通事故により死亡された場合、死亡しなければ得られたであろう年金収入は得られなくなります。しかし、すべての年金について交通事故による死亡の逸失利益として損害賠償の対象となるわけではありません。
被害者が死亡時に年金等の支給を受けていた場合には、①当該年金等の給付目的、②拠出された保険料と年金等の給付との間の対価性、③年金等の給付の存続の確実性という観点から、逸失利益として賠償の対象となるか判断されます。
年金の中で最も馴染みがある老齢基礎年金や老齢厚生年金、退職共済年金などの老齢・退職時支給の年金等については死亡による逸失利益として賠償の対象となります(最判平5・9・21裁判集民169号793頁、最判昭50・10・24民集29巻9号1379頁)。
障害基礎年金や障害厚生年金、障害共済年金などの後遺障害支給の年金等についても、死亡による逸失利益として賠償の対象となりますが、妻や子の加給分については逸失利益とは認められません(最判平11・10・22民集53巻7号1211頁)。その理由は、障害基礎年金については、拠出された保険料と給付の間に牽連性が認められるが、妻や子の加給分については拠出された保険料と給付の間の牽連関係が認められないことや、妻との離婚や子の婚姻等により給付が終了するものと定められており給付の存続の確実性があるとはいえないことなどがあげられています。
遺族基礎年金や遺族厚生年金、遺族共済年金などの遺族支給の年金については、逸失利益とは認められません(最判平12・11・14民集54巻9号2683頁、最判平12・11・14裁判集民200号155頁)。その理由は、遺族支給の年金等については、受給者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものであること、受給権者自身が保険料を拠出しておらず、給付と保険料との牽連性が間接的であり、社会保障的性格の強い給付であること、存続が不確実であることなどとされています。