Q: 父(被相続人)が貴金属、預金、不動産(実家の土地建物)等、計数千万円相当の財産を残して死亡しました。相続人は、私を含め姉弟3人なのですが、遺産の分配で話し合いがまとまらず、遺産分割調停や審判の申立てを検討しています。 もっとも、生前父は長姉Aとともに暮らしていたため、現金はもちろん、預金通帳等は姉が現在も管理しています。そのため、姉が貴金属を処分したり、預金等を勝手に使い込んだりしないか心配です。遺産が分割されるまでの間、姉の使い込みを防止する方法はありませんか。
A: まず、預金については、金融機関に口座凍結を促すことが考えられます(凍結されると、公共料金等の口座引落しもできなくなりますので、予め引落し口座変更等の手続きが必要でしょう)。
また、不動産については、登記名義人が被相続人のまま、姉が勝手に売却することは事実上困難です。
姉が相続人全員の同意があるかのように装い、善意の第三者に売却した場合でも、他の相続人の持分の売却は無効なものとして、登記の訂正を求めることが可能です。
もっとも心配なのは貴金属(動産)の処分です。とはいえ、動産の場合、これを善意で購入した者には即時取得(民法192条)が成立しうることから、現物を取戻すことができなくなるでしょう。また、現金化されたことにより、使い込みも容易になります。
質問は、遺産分割調停・審判を検討しているとのことですので、姉の使い込み防止措置として、「財産管理人選任」の職権発動を促すことや(家事事件手続法200条1項)、「遺産分割審判事件を本案とする保全処分(審判前の保全処分)」を申し立てることが考えられます(同法200条2項)。
審判前の保全処分とは、本案たる家事審判事件又は家事審判事項に係る事項について調停の申立てがあった場合に、これら本案の係属する家庭裁判所が仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他必要な保全処分を命じるものです(家事事件手続法106条1項。※審判事項ごとに特則規定あり)。
遺産分割調停及び審判を本案とする保全処分として、①財産管理人の選任、財産管理に関する事項の指示、②仮差押え、仮処分等があります(同法200条1項、2項)。
②は当事者の申立て、①は、申立ての他、家庭裁判所の職権によっても行われます。その要件にも違いがあり、①は財産管理のための必要性を疎明するのに対し、②は強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険防止のため必要のあることを疎明することになります。
質問のように、相続財産の管理について争いのある場合には、遺産分割調停とともにこれら保全処分を申立てておき、相続財産にいわば“ロック”をかけておくことを検討する必要があるでしょう。
なお、未分割の相続財産は相続人全員の共有状態にあります。また、預金のように可分な債権や可分債務は、相続開始の時点で法定相続分に従い当然分割と解されていますが、現金や定額郵便貯金は当然分割でないとされています。このような、共有物たる動産・不動産等の無断処分や現金の使い込みは刑法上の横領罪を構成します(ただし、親族相盗例につき、親告罪となる場合もあります)。