皆様、こんにちは。

1.はじめに

今回は、被相続人の名義で遺された預金の取り扱いについて少しばかりご紹介します。

2.預金の位置づけ

相続人が何人もいる場合の相続のことを「共同相続」と言います。

共同相続のケースでは、被相続人(=亡くなられた方)の名義の可分債権(例;金銭の支払請求権)は、当然に分割されるとの理解が最高裁判例(最一小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁等)により定着しています。

つまり、例に挙げた金銭の支払請求権の類は、金額によって明確に持ち分を区分けすることが可能なので、特に話し合いを要せずに各相続人は権利を取得することができると扱われているのです。

ただし、法定相続分を超える割合の額をもらって、例に挙げたような支払請求権を行使する場合には、その割合を設定した根拠となる遺言や遺産分割協議などの立証が必要にはなります。

3.預金の扱いについて

金融機関に預けてある預貯金の払戻請求も、金銭の支払請求権といえます。裁判例上も可分債権における考え方を適用して(東京高裁決平成14年2月15日家月54巻8号36頁等)、金融機関に対する相続分に応じた払戻請求を認めています。

かつては、金融機関から、相続人全員の合意がなければ応じないと言われて払い戻し請求を拒否されるという問題がありました。しかし、最近では、そのような対応が慣習として成り立っているとは認められず、被相続人自体にもそのような取扱い方を了解する意思は認められない考え方がトレンドとなっています。

したがって、相続人の方々は個人において被相続人名義の預金が預けられている金融機関に対して相続分に応じた払戻請求をすることができると考えられています。

もっとも、上記2のように預金を遺産分割協議の対象とする旨の合意が形成されている場合、預金の払戻請求権が誰に帰属するかわからない段階ではその点を理由に金融機関が払戻を拒否することを認めたり(東京地判平成9年5月28日判タ985号261頁等)、その間の遅延損害金の発生を否定した裁判例(東京地判平成9年10月20日っ判タ999号283頁)があり、議論を呼んでいます。

家庭裁判所の実務としては、「遺産分割調停では、相続人から預金債権を分割の対象としないという積極的な申出がない限り、そのまま分割対象に含めて手続を進める」(片岡・管野「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」96頁、日本加除出版)と扱われているようなので、常々、どういう状況、どういうタイミングで、預金の払い戻し請求をしようとしているのか、考えながら行動する必要があります。

今回もお付き合いいただきありがとうございました。