Q:  先日、父が亡くなったのですが、葬儀等にバタバタして、今ようやく遺産分割協議を始めることができました。その中で、財産等を整理していたのですが、葬儀費用や香典の扱いに困っています。
 葬儀の主宰者は長男だったのですが、葬儀費用については、どうやら父が死ぬ直前に引き出した預金の一部から出してしまったようなのです。  そのような状況で

 ①長男の主張では、葬儀費用は父のために出したのだから、相続財産のうち、債務として扱うべきだから、葬儀費用を父の預金から出したのは当然だとしています。

 ②一方で、香典については、自分が主宰者なのだから、自分がもらって当然だとしており、私としては納得がいきません。

 長男の言い分は、法的に正しいのでしょうか。
 ③また、今後どのように対応すればよいのでしょうか。

 ちなみに我が家の家族構成は、亡父、母、長男、次男(私)、長女です。

A:

①について

ア 結論
 葬儀を行った経緯が重要です。
 原則として、ご長男が主宰者であることから、葬儀費用もご長男が負担すべきと考えられます。
 しかし形式的にご長男が主宰者となっていたということであれば、ご長男の主張は正しいと考えられます。

イ 理由
 基本的に裁判所においては葬儀費用については相続財産には含まれないものと考えられています。

 なぜならば、葬式費用は、被相続人自らが死ぬ前に手配したといった事情がない限り、相続後に葬儀の主宰者が手配したことにより発生した債務であることから、相続後、死者に債務が発生するというやや奇妙な考えよりは、葬儀の主宰者である方に債務が発生したと考えることが自然だからです。

 たとえば、名古屋高裁平成24年3月29日判決においては、「追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰したもの、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭司承継者が負担するものと解するのが相当である」と判断しました。
 また、東京地方裁判所平成19年7月27日判決においては、「葬儀費用は、相続開始後に生じた債務であるから、相続債務には当たらず、当該葬儀を自己の責任と計算において手配して挙行した葬儀主宰者が負担すると解するのが相当である」と判断しています。

 もっとも、例外的に、被相続人自らが死ぬ前に手配したといった事情があるような場合には、生前に被相続人が負担した債務であると考えられることから、相続財産から控除することが適当であると考えられます。

 さらに進んで、相続人の全員が葬儀を執り行うことに関して合意し、名目的な葬儀主宰者が相続人のうちの一人であったような場合には、見解が分かれるものと考えられます。
 この点、東京地裁平成16年11月12日判決においては、「葬儀については、被相続人の意思のみならず、相続人のために執り行うという側面もある」としたうえで、「相続人全員の合意のもと葬儀のもと葬儀を執り行った場合には、その費用も相続人間で負担することが合理的であるから、葬儀費用を相続債務として相続財産から控除することが相当である」と判断しています。

 以上から、葬儀が全員の合意で行われたものかどうか、といった観点から検討すべきと考えられます。

②について

ア 結論
 香典については、原則として、主宰者であるご長男が取得することになるため、ご長男の主張は正しいと考えられます。 ただし、相続人の全員の合意により葬儀が行われたということであれば、実質的には全員に対し香典が支払われたものとして、相続財産に含めて分割の対象とすべきと考えられます。

イ 理由
 香典は、死者への弔意、遺族への慰め、葬儀費用などの遺族の経済的負担の軽減などを目的として葬儀の参列者から主宰者や遺族に対し、支払われる贈与であると考えられています。
 そのため、葬儀費用などの負担軽減に注目したうえで、通常の葬儀であれば、受付等において主宰者に対し香典が贈られると考えられますので、原則として、香典を相続財産に含めず、取得すべきは主宰者であると考えられます。

 もっとも、①において葬儀費用が相続財産から控除される対象であると考える場合、すなわち、葬儀が全員の合意により行われていたような場合には、葬儀費用の負担についても全員に帰属し、実質的な主宰者は全員ということになるため、香典も相続財産に含めることになるものと考えられます。

③について

 以上から、葬儀を行った経緯が重要となりますが、当該経緯に寄らず、今回の場合においては、妥当な解決策として、両者とも相続財産に含めたうえで、均等に遺産分割を進めることが、全員にとって納得のいく道ではないかと考えられます。

弁護士 中村 圭佑