外国人(A国人とします)である夫と日本人の妻が結婚し、この夫婦には子供二人ができたとします。この夫が日本で死亡してしまったというような場合、相続分などその財産の相続に関する問題はどこの国の法律に基づいて処理されるのでしょうか。

国際的な私法上の関係についてどこの国の法律を適用するか、すなわち準拠法をどこの国の法律にするかを決定する法のことを「国際私法」と呼んでいます。
各国の国際私法上、相続の準拠法の決定に関しては、おおきく、相続分割主義と相続統一主義があります。相続分割主義とは、動産と不動産を区別して、動産については被相続人の住所地法や本国法により、不動産については不動産所在地法によるとする立場です。相続統一主義とは、相続の問題すべてを被相続人の属人法によるとする立場です。

日本では、“法の適用に関する通則法”が日本国内における準拠法決定のルールを定めていますが、同法36条によると、「相続は、被相続人の本国法による」とされ、動産と不動産を区別しない相続統一主義が採用されています。 本国法とは、原則として、その者が国籍を有する国の法のことをいいますから、外国人である夫がA国人であれば、A国法が準拠法となります。

A国法が、日本と異なり、配偶者及び子は相続人となり、それぞれの法定相続分は相等しいものと規定している場合、妻と子供二人の法定相続分は、妻3分の1、子供もそれぞれ3分の1ずつということになります。 仮に、準拠法が日本法であれば、配偶者が2分の1、子が4分の1ずつとなります(民法900条)から、他国の法が準拠法になる場合と日本法が準拠法となる場合とでは法定相続分が異なることになり、注意が必要です。
A国法の例では、それほど大きな違いがありませんでしたが、準拠法によっては、実際に相続が始まってみると、そもそも相続人の範囲が異なっていたり、自分が考えていた法定相続分とは程遠い割合の相続分しかなかったなどということが起こるかもしれません。準拠法となる法に従えばどのような相続財産の処理がされるのかを調べておくとよいのではないかと思います。

なお、仮に、上記の例の日本人妻が、A国に動産と不動産を残してA国で死亡したとします。そして、A国国際私法が、相続分割主義を採用しており、動産については被相続人の本国法により、不動産については不動産所在地法によるとする内容であったとすると、動産については、日本人の妻の本国法である日本法、不動産については不動産所在地のA国法が準拠法となります。