自分の財産を死後も活用する方法として、遺言や相続関連の法令に関して勉強したものの、それでも自分の要望を達成できるか不安である、といった悩みをお持ちの方も多いかと思われます。

 幣所にも、①現在賃貸用の不動産やある程度まとまった現金を持っており、管理等は管理会社等も利用しているが、相続させたい子などが軽度の障がいをもっており、普通に相続させただけでは財産を管理できるか、管理会社等のやりとりが適切にできるのか、浪費してしまわないか、あるいは悪い奴らに騙されてすべて奪われてしまわないか不安である、といったご相談を受けることがあります。
 あるいは、②財産は相当程度あるが、子どもはおらず、残されたのは妻のみであるが、妻の兄弟等とは折り合いが悪く、できれば相続させたくない、妻が死んだ後、財産が残っているのであれば恵まれない子供のために奨学金を設定したり、施設等を作る等して寄付して欲しい、といった要望をお持ちの方もおられます。

 これらの要望に関して、日本の民法では必ずしも適切な対応をとることはできない場合があります。
 すなわち、①は、障がいのある子ということであれば、子に財産を相続させ、成年後見人等の選任等により対応できる可能性があるものの、成年後見人を選任できるほど判断能力が減退していないような軽度の障がいや身体障がいの場合には、補助や保佐といった制度はまだしも、成年後見制度自体は利用できず、十分なサポートを受けられないまま財産をだまし取られてしまう可能性や、まとまった現金がいきなり全て手元に入ることで将来の生活等を意識できず浪費してしまう可能性もあるのです。
 また、②は、日本の民法においては、遺言等によっても、一度相続が生じた後の財産の帰趨に関してまで指定することはできませんし、相続人が自由に処分しうるものであって、死んでしまった場合には相続人の遺言により、相続方法等が決まることになるため、事実上、最終的な処分方法をお願いすることはできても、法的には②の要望を確実にかなえることはできません。

 そこで、利用することをお勧めしているのが、信託制度です。
 信託とは、財産を持っている委託者Aが、一定の目的を定めて、財産を管理・処分する受託者Bに対し財産を預け、その管理・処分によって得られる利益を受益者Cに対し分配するという制度です。
 信託制度は委託者Aの死亡後も、一定の目的が達成されるまでは存続しつづけるため、相続において達成できない目的を達成するための制度として利用可能性があるのです。

 例えば、①の例でいえば、親である委託者Aは、自らの死後のことを考えて、信託銀行等の受託者Bとの間で、賃貸用不動産や現金の管理を目的とした信託を設定し、収益に関しては生活費として必要と思われる分を毎月継続的に子である受益者Cに与え続けるという制度設計にすれば、親である委託者Aの死亡後も子である受益者Cが直接財産管理をすることなく、また、一度にまとまった現金を与えることなく、継続的に生活をできるだけの収益を得させることができます。また、親である委託者Aの生存中は、賃貸用不動産から得られる収益について、Aに対して支払うとすることもできます。

 さらに、信託の設定内容によっては、受益者は、受託者に対する指図によって信託財産からある程度まとまった金銭を得ることができる可能性がありますが、受益者本人の意向のままに受益させることは目的にそぐわない可能性があります。そこで、受益者の代わりに受託者に対し指図等を行う受益者代理人を選任し、受益者代理人に信頼できる第三者を選任することで、仮に急な出費等でまとまった現金が必要な場合に、受益者代理人の指図によって、目的を維持しながら給付を受けるという制度設計も可能です。  なお、重度の障がいをお持ちの方の生活のために信託等を設定する場合には、特別障害者扶養信託制度が適用され、税制上の優遇措置があります(相続税法21条の4、金6000万円を限度に非課税とされています。)

 次に、②の例では、委託者Aは、妻である受益者Cの生活等のために、受託者Bとの間で信託を設定し、かつ、受益者Cが死亡後、受益者を定めないような形の信託として、奨学金や研究助成等を目的として、基金等を創設するといったことができます。

 以上のように、自らの死後、家族の生活を考えた場合、相続の一つの手段として、日本の民法では達成できない目的を達成するために、信託制度があるということを認識しておくべきかと思われます。
 なお、遺言等と同じく、信託を設定したとしても、遺留分等は発生する点にはご留意ください。

弁護士 中村 圭佑