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相続人は、相続財産に対して一定の期待を有していることが通常ですから、この期待を最低限保護する必要があります。この最低限保障された相続財産を遺留分といいます(民法1029条)。遺留分権利者の遺留分が、遺贈や死因贈与、一定の生前贈与等によって侵害された場合は、遺留分減殺請求権を行使することにより、財産の回復を図ることがあります。

このように、被相続人Aが特定の相続人Bに遺留分を超える額を相続させたいと考えていても、他に相続人C、Dがいれば、後に相続人間で無用な争いを生じさせてしまう可能性があります。
そこで、遺留分を超える財産を特定の相続人に相続させる場合に、遺留分減殺請求を回避する方法についてお話したいと思います。

2.遺留分の放棄を行ってもらう方法

まず、被相続人Aが生存中に相続人C、Dに遺留分の放棄をしてもらう方法があります。この場合、C及びDが申立人となり、遺留分放棄の許可審判を求める申立てを家庭裁判所に申立て、許可を受けなければなりません(民法1043条1項)。この方法は、事前に他の相続人が遺留分放棄に同意していなければならず、同意してもらえそうにない場合には意味がありません。

3.生命保険の受取人とする方法

次に、被相続人Aのかけている生命保険契約の受取人を相続人Bとする方法が考えられます。

遺留分を算定するにあたっての基礎財産は、①被相続人が相続開始時に有していた財産及び、②特別受益となる生前贈与から、相続債務の全額を差し引いて計算されます。
そこで、ある財産が、①被相続人の相続財産にも、②特別受益にもあたらなければ、当該財産は遺留分減殺請求の対象とならないことになります。

この点、Aが生命保険契約の契約者及び被保険者となり、かつBが受取人となっている生命保険金は、原則として、①被相続人の相続財産にも、②特別受益にもあたらないとされているので、遺留分減殺請求の対象となりません。但し、②に関して、最判平成16年10月29日で、生命保険金が原則として特別受益に該当しないとしながら、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認できないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により特別受益に準じて持ち戻しの対象となる旨判示しています。
したがって、この方法をとる場合には、上記判例でいうところの特段の事情にあたらないよう注意しなければなりません。