1.はじめに

 こんにちは。
 先日、新横浜にあるラーメン博物館に行ってきたのですが、その道すがら新横浜駅前に大きな斎場を見かけました。ちょうど喪服を着た人たちが出入りしていたので、今日もお葬式なんだなあとチラッと思いつつも、空腹には勝てずラーメン博物館へ急ぎました(笑)。ちなみに龍上海というお店が美味しかったですよ。

 さて、お葬式と言えば、その後には通常ご遺族の方々が形見分けをすることが多いと思いますので、今回は形見分けに関するお話をしたいと思います。

2.法定単純承認(民法921条)

 形見分けについてのトラブルは、主に、相続放棄及び限定承認をしているないしこれからしようとしている場合に生じますので、今回はそういう状況にあることを念頭に置きます(被相続人(死亡した人)に多額の借金があり、相続したくない場合等ですね。)。

 こういう状況にある場合、相続人の人達に気を付けて欲しい制度として、法定単純承認(民法921条)というものがあります。これは、相続放棄や限定承認の手続を行い、全面的に相続をする(これを単純承認といいます)手続をしなかったとしても、一定の事情が生じさえすれば、単純承認したものとみなしてしまう制度のことです。

3.形見分けの危険性

 相続人に多額の借金があるために、「相続放棄や限定承認をしたいけれども、相続人たる故人の思い出の品等の形見分けはしたい」というお考えの方は多いかと思われます。気を付けないと、「形見分けだけのつもりだったのに、多額の借金も相続してしまった!」、なんて恐ろしい事態が起こり得るのです。
 では、一体どの程度の形見分けであれば、単純承認をしたとみなされずに済むのでしょうか。いくつか裁判例をご紹介したいと思います。

4.法定単純承認が認められた例

①大審院(今の最高裁です)昭和3年7月3日の判決

 一般経済価額を有するものを他人に贈与したことは、民法921条1号の「処分」にあたるとした事例

② 東京地裁平成12年3月21日の判決

 被相続人の母が、被相続人のスーツ、毛皮コート、靴、絨毯等の遺品のほとんどすべてを自宅に持ち帰ったことが、形見分けを超えるものとして、民法921条3号の「相続財産の・・隠匿」にあたるとしたもの

5.法定単純承認が認められなかった例

③東京地裁平成21年9月30日の判決

 被相続人の妻が、被相続人の自宅内にあった衣類、ノートパソコン等を妻の実家に送付したこと、相続財産であるブラウン管式テレビ等を知人らに無償譲渡したことは、民法921条1号の「処分」にあたらないとした例。

④東京高裁昭和37年7月19日の決定

 相続人が、着古されたボロの下着とズボン各1着を元使用人に与えても単純承認の効果は生じないとした事例。

⑤山口地裁徳山支部昭和40年5月13日の判決

 相当多額の相続財産中から、形見分けの趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコートと被相続人の位牌を持ち帰り、時計、椅子2脚の送付を受けたことは、民法921条1号の「処分」にあたらないとした事例

6.まとめ

 基本的には、上記①の判例が示すように、「一般経済価額」を有する財物を形見分けした場合には、法定単純承認したとみなすのが一応の基準(この場合相続したのと大差なくなるからですね)なのですが、注目すべきは、③⑤の判例のように、一見すると経済的価値のある物を形見分けした場合に法定単純承認を認めなかった点です。
 裁判所は、単純に形見分けする対象物の経済的価値のみを見ているわけではなく、事案ごとに、相続財産全体の額、被相続人、相続人の財産状態、当該処分の性質等を総合的に考慮して判断しているので注意が必要です(③や⑤の判例は、全体財産額や処分態様を相当程度考慮した例と言えるでしょう)。

 このように、どの程度の形見分けが法定単純承認となるかは、複雑な法的判断を伴いますので、ご自身で判断なさらずに早い段階で専門家に相談されることをお勧めいたします。
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