私(60歳)は、長年、B男(60歳)と同棲を続けてきたんですが、突然、B男が交通事故で帰らぬ人になっていまいました。特に、遺言も残していないようでした。
悲しみに暮れていた私のところへ、B男の兄(63歳)と名乗るC助がやってきて、
「この家は俺がB男から相続したんじゃ。他人のお前はすぐに出て行け。結婚もしてないお前には何も権利がないんじゃ。遺言でもあれば良かったけどな(笑)」
と言われたのです。
確かに、B男にC助という兄がいることは、B男から聞いていました。B男は、子供もおらず、両親も早くに亡くしていたので、兄のC助が相続人なのかもしれません。
でも、C助は借金を作っては両親やB男に助けてもらっていたようで、いわゆる親族の厄介者だとB男から聞いていました。両親が亡くなった時、C助はマンション一棟を両親から相続し、現在はそのマンションの一室に住んで家賃収入で生活しているようです。
B男は自分が死んでも私が困らないようにと自宅マンションを購入してくれていたんです。しかも、生命保険にまで加入してくれていました。
私は、出ていかなければいけないのだろうか・・・・・
途方に暮れたA子は、まず、ネットで調べてみました。
ネットで調べると、「遺言がなくても諦めてはいけません。内縁の妻に相続権はないものの、一定の場合には住み続けることができる。」と書いてありました。そのサイトに載っていた裁判例をみると、相続人にとって相続不動産を利用する必要性が低く、他方、内縁の妻の年齢や経済状況等からその不動産に住み続ける必要性が高い場合であれば、出ていかなくてもよさそうでした。
A子は一安心しました。
皆さんは、どう思われますか?
ネットに書かれていたことは正解です。
内縁の妻には基本的に相続権はありませんし、相続権がなくても内縁の妻が保護されることも多いでしょう・・・・・
でも、弁護士の目から見ると、少し、注意すべきことがあります。
本当に、A子とB男は内縁関係なのでしょうか。交際・同棲・内縁、この違いは何でしょうか。A子とB男の関係が内縁であれば裁判所も保護してくれるでしょう。注意すべきは、社会一般的に用いられている内縁と法律上の内縁とは少し違うことです。いくら二人が愛し合って、長年同棲していたとしても、法律的には同居人と判断されてしまうことも多いのです。
簡単に、言っておきますと、誰から見ても婚姻関係にある夫婦と同じような生活をしているが、単に婚姻届を出していないだけという感じでしょうか。このような関係を、裁判所に対し、客観的資料に基づき証明しなければならないのです。
皆さんが考えておられるほどこの証明は簡単ではありません。
弁護士という立場から言わせていただきますと、内縁の一方が亡くなってから証明することは本当に大変です。1番の証人が死んでしまっているのですから。自分が死んだときのことを想像してみてください。誰が自分の気持ちや考えを正確に知っていますか?しかも、B男がC助や両親、友人、同僚や取引先にA子さんとの関係を隠していたかもしれません。どう説明していたのかもわかりません。
「素敵な金縛り」という映画のようにB男が法廷に現れて本心を証言してくれればいいですが・・・
そこで、内縁関係にある方々に気をつけておいて欲しいことは、相手のことを大切に思っているなら、婚姻届を出さない以上、誰が見ても内縁と判断できる形を残しておくということです。内縁関係を選択した方の責任だと思います。そこまで責任を持つ覚悟が事実上の婚姻であり内縁なのだと思います。
ただ、内縁を示す形といっても、これ一つがあれば十分というものではありません。新しい男女の形として、契約結婚も増えています。婚姻届を出さないのであれば、一度、弁護士にご相談されることをおすすめします。何をしておくべきか、具体的事案に応じてアドバイスを受けることができるはずです。
最後ですが、B男の生命保険について少し書いておきます。生命保険金は、相続財産ではなく、受取人の固有財産になります。ですから、受取人を内縁の相手に指定しておかないと、約款に定める受取人の順位で保険金が支払われてしまい、内縁の相手に一銭も残せなくなります。
生命保険以外にも、内縁の方に固有の財産として認められる可能性があるものとして、退職金、遺族年金があります。また、今回は、交通事故ということですから、内縁配偶者は扶養利益の侵害として損害賠償請求権や固有の慰謝料請求権が認められる可能性もあります。
ただ、これらも、単純に認められるものではないことは肝に銘じておいていただきたいのです。退職金規定等を確認することが必須ですし、損害賠償金といっても相続人が既に受け取っているかもしれません。
このように、遺言がなくても諦めてはいけませんが、内縁の方が保護される為には、ハードルが高く、具体的状況に応じた専門的知識が重要です。内縁関係だと思う方は、専門家に相談だけでもされることを強くお勧めします。
余談ですが、遺言があっても安心は禁物です。
遺言については別の投稿者のところに譲りますので ・・・・