お父さんが亡くなり、お葬式も済んで、遺品整理をしていると、
お仏壇の引き出しの中から、封がされた見慣れない封筒が。
表書きには、お父さんの字で「遺言書」なんて書いてある。

――まさかお父さんが、遺言を書いていたなんて!!

こんなときにどうすればよいか、皆さんはご存じでしょうか。

はやる気持ちを押さえつつ、何が書いてあるんだろう、と
ハサミで開封・・・なんてしちゃダメですよ。
じゃあ、どこかの自動車メーカーのCMみたいに、
仏間で親族郎党を集めて読み上げればいいのでは?
・・・実はこれも、厳密には誤り。

こんなときのために、民法はきちんとした規律を定めています。
それが、「遺言書の検認」と呼ばれる手続です。

(1) 「遺言書の検認」とは?

「遺言書の検認」は、亡くなった方の遺志を遺言のとおりに実現するため、
まずはその準備として、家庭裁判所で遺言の状態を確定する手続です。
自筆証書遺言は、全て手書きで、日付と氏名が入っていて、押印があれば、
あとは、どんな紙にどんな形で書くのも基本的には自由。
だからこそ、遺言が、残されたままの状態であることを確認するために、
まずは裁判所に遺言書を見てもらうこととしたわけです。

※ ちなみに、遺言が「公正証書」によって行われた場合は、
そのような手続を経なくても中身の信用性は十分に認められますので、
検認は必要とされていません。

冒頭のように、誰も知らなかった遺言書が出てきた場合はもとより、
遺言書が作成されていることが知らされているような場合も、
相続の開始(お父さんが亡くなったこと)が分かった時点で、
家庭裁判所に対し、速やかに遺言書を提出しなければなりません。

封印のある遺言書の開封は、家庭裁判所で、
相続人もしくはその代理人の立ち会いのもと、
初めて認められます(民法1004条 1項、3項)。

これらの手続を経ることなく、勝手に遺言の実行をしたり、
その開封をすることは、民法で禁じられているのです。
過料を科せられてしまう可能性もあるので(1005条)、要注意です。

(2) 家庭裁判所での手続

検認の申立てがあると、遺言書検認の期日が、
家庭裁判所から相続人全員に通知されます。
通知を受けた相続人が検認期日に立ち会うか否かは相続人の自由です。

検認期日では、遺言書について、 「遺言の方式に関する一切の事実を調査」するものとされています。 たとえば、封がなされているかいないか。 封がされていれば、ここで初めて開封することになります。

次に、遺言書の中身について。
遺言書や封筒の紙質がどのようなものか。
文言は何が書かれているか。日付は入っているか。
印鑑はきちんと押されているか、どのような印影か・・・。
通常は、コピーをとって、後述の検認調書に添付されます。

さらに、保管状況についても調査がなされます。
立ち会った相続人や、その他の利害関係人から、
どのような状況下で遺言書が保管されていたのか、
遺言書の存在は親族に知らされていたのか、
どういった経緯でこれが発見されたのか、などなど。

これら調査の結果をもとに、家庭裁判所が、
「検認調書」という書面を作成します。
以上が、「遺言書の検認」と呼ばれる手続です。

(3) 遺言書を開封してしまったら

万が一、遺言書をうっかり開封してしまった場合。
このときでも、検認手続きを行うこと自体は可能です。
ただし、前述の過料が科される可能性があるほか、
保管状況、発見状況、開封してしまった理由等について、
検認申立書等において詳細に説明する必要があります。
そのような場合には、すみやかに弁護士に相談されるのが良いでしょう。

自筆証書遺言の場合、このような検認手続を経ないと執行できない上、
銀行などの金融機関も、検認手続を経ない状態では
ほとんど相手にしてくれません。
また、自筆証書遺言の場合、要件が満たされていないとして無効とされたり、
滅失したり改ざんされたりするリスクがつきまといます。
このような拘束力の弱さから、相続人どうしで、
遺言の効力をめぐって紛争が生じやすいという欠点があります。

他方、公正証書遺言の場合、検認が必要でないことは前述のとおりです。
さらに、公証人という専門家が関与するため、
方式違反で無効になるおそれが少ないうえ、
公正証書遺言の原本が公証役場に保管されるため、
遺言書の滅失・改ざんの心配がないという利点があります。

公正証書遺言の場合、手続面や費用面の心配をされている方が多いかもしれません。
たしかに、公証人とのやり取り等、手続的には多少面倒で時間もかかる面は否めませんが、
公証人の助言をもらいながら作成すれば、それほど労力のかかるものではありません。
また、遺言の対象となる財産の額に応じて費用も生じますが、
10万円程度でおさまることがほとんどのようです。

自筆証書遺言を発見した際、どうしたら良いかわからず弁護士に相談される方も多く、
その場合は結局弁護士費用がかかってしまうと考えれば、
費用面でのデメリットもほとんどないといえるでしょう。

以上のように、自筆証書遺言と公正証書遺言を比較した場合、
公正証書遺言のほうが、利点が多いと考えられます。
相続人間の無用な争いを避け、円満な相続を実現するためにも、
公正遺言証書を作成されることをおすすめします。