1.はじめに

今回は遺産分割協議が調わない場合に、どのような対応や手続が考えられるかについてご説明します。

もっとも、「遺産分割協議が調わない場合」とはどのような状態なのかよくわからない方もおられるかと思いますので、まずはこの点をご案内しつつ、具体的な手続等について見ていくことに致します。

2.遺産分割協議とは?

「遺産分割協議」という言い方自体はあまり耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。ですが、行っている内容そのものをみれば、「ああ、なんだそういうことか」と思われるでしょう。

有り体に言ってしまえば、共同相続のケース、すなわち、複数の相続人で相続をする時に、遺産の分け方(誰が、何を、どのくらいもらうか)について、相続人同士で話し合うことを指します。遺産分割協議をしているのかどうかは、上に指摘したような内容の話し合いをしているどうか、もう少し踏み込んでいえば相続の仕方が未確定の遺産の分配について話し合っているかどうかで判断できます。

他方で、やり方についての制約はあまり存在せず、話し合う場所だとか、第三者に加わってもらわなければならないだとか、口頭ではなく書面でやりとりしなければならない、といったルールはありません。

ただし、相続人本人らで話し合う、というスタイルが守られていればよいのですが、例えば正式に依頼を受けた弁護士のように有効な委任を受けた代理人を除く、相続人以外の第三者が介入して、相続人本人(ら)の了解も得ずに勝手に決めてしまったとなれば、そのような協議は後で無効な協議であったと評価されるでしょう。

3.協議が調わないということ

上記2で挙げましたように、相続人本人らで遺産の分け方について話し合っていればひとまず有効な協議となりますが、この話し合いによる方法の限界は、相続人全員の了解を得られなければ協議が終わらない、ということです。

すなわち、相続人の中で一人でも遺産の分け方について一人でも反対意見が出ている間は協議がまとまっていないことになります。これが「協議が調わない」ということです。

ゆえに、遺産の一部分の分け方について、皆の了解が得られていた場合には、その範囲で有効な協議があったと扱うことは可能です。分配方法が未確定の遺産をどうわけるかを話し合うことが遺産分割協議の本質だからです。

4 利用可能な手続について

(1) 「協議が調わない」ということは、相続人本人ら(代理人を立てる場合もありますが)の話し合いでは、遺産の分け方が決まらず、行き詰ってしまう、ということでした。

それでも遺産分割の話を進めていくためには、適切な方向へリードしていける第三者の介入が必要ということになるのでしょう。ここで頼る先が家庭裁判所です。

遺産分割をまとめたいと思う相続人は、家庭裁判所に対して調停の申立てをすることができます。申立てを受けた家庭裁判所は、調停委員会という審判官と調停委員で構成されるユニットで対応します。原則的には相続人(あるいは相続人の代理人)全員に家庭裁判所へ集まってもらい、調停委員の指揮の下、申立人と相手方に分かれて調停を窓口に話し合いを行います。単なる考えのぶつけ合いではなく、裁判所も第三者として説得を交えながら進めていきます。

それでも、折り合うところが見出せない、納得の得られる分配案にならない場合には、遺産分割調停は不成立となります。調停が不成立となっても直ちに全て終了になるというわけではなく、審判手続に移行されます。

(2) 審判手続は、審判官(裁判官のことです)が手続の指揮を行って、遺産の分配を決める手続です。裁判官が決めるとはいえ、従前の遺産分割協議や遺産分割調停で各当事者の合意が得られている内容は尊重して決めてもらうことになります。

人によっては、裁判所に行って話し合いするのは面倒だから、最初から審判で裁判官に決めてもらう方が手っ取り早い、という考え方をされるかもしれません。もっとも、審判を担当する裁判官は職権で審判手続から調停手続に付す(移行させる)決定をすることができます。つまり、裁判官は話し合いで決められそう、決めるべきだと判断した場合には、調停の形式で進めさせることができるので、直ちに審判の方式で決めてもらえるとは限らないことに注意が必要です。