1.相続は「放棄」できる
相続とは、死亡者の権利義務を相続人に承継させるものですから、相続人は、死亡者のプラスの財産(不動産や預貯金など)も、マイナスの財産(借金など)も承継するのが原則です。
しかし、例えば、親がたまたま借金をしていて、完済前に亡くなったために、子供である自分に債権者から支払請求が来た・・・。
借金の額がわずかであればともかく、数十万、数百万円となるとどうでしょうか。「あなたは相続人なんだから、払うべきなんですよ。」と言われても、納得できない人がほとんどでしょう。
こんな時に便利なのが、「相続の放棄」という制度です。
民法915条第1項本文は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、・・・放棄をしなければならない。」と定めています。
相続人は、自分のために相続の開始があったことを知った時(同居している親子であれば、親の死亡時と言えるでしょう)から3ヶ月以内に、家庭裁判所に対し、放棄を申し出れば、死亡者の財産を相続することはなくなります。
ただ、この場合、プラスの財産もマイナスの財産も全て放棄することになりますので、借金だけでなく、プラスの財産もある程度あるような場合は、本当に放棄した方が得かどうか、よく考える必要があります。
2.遺産分割協議で持分がない場合との比較
相続の放棄をすると、1.で説明したように、死亡者の財産を一切承継することはありません。放棄者は、最初から相続人にならなかったものとして扱われます(民法939条)。
この状態は、遺産分割協議の結果、持分がない場合と、外見的にはほぼ同じ状態です。
相続の放棄をするには、1.で述べたように、家庭裁判所への申述が必要ですが、手続が面倒だということで、遺産分割協議において、わざと特定の相続人がほとんどの遺産を取得することとし、他の相続人はわずかな財産を取得するにとどめるという方法を取ることで、いわば事実上の相続放棄をするケースもあります。
しかし、遺産分割協議で持分がない場合と、相続の放棄には、重大な違いがあります。
すなわち、相続放棄の場合は、マイナスの財産を承継することはありませんが、遺産分割協議で持分をゼロにしても、それは単にプラスの財産を取得しない、というだけの意味しかなく、相続人の地位を失ったわけではないため、マイナスの財産は承継しなければならないということです。
ですから、マイナスの財産を承継したくない場合は、相続の放棄をしましょう。
「でも、放棄の手続は色々と面倒だ。それより、遺産分割協議の中で、マイナス財産については、他の相続人に負担してもらうことにすればいいじゃないか。そういう話合いができれば、問題ないでしょ?」
このように考える方がいるかも知れません。
確かに、マイナス財産をあなたの代わりに負担してくれる奇特な相続人がいれば、それでもいいかもしれません。
しかし、相続人間でそういう話合いができたとしても、債権者がそれを認めるとは限りませんから、やはり相続の放棄で対処すべきです。
3.「相続の放棄」は本当に面倒?
相続の放棄をするには、単に家庭裁判所に「放棄します」と言うだけでは足りません。
戸籍謄本の取り寄せなど、手間がかかる面は確かにあります。
しかし、弁護士に依頼すれば、弁護士があなたの代理人として手続をすることができますから、煩わしさはありません。
また、3ヶ月の申述期間を過ぎてしまった場合でも、期間の伸長を認めてもらえる場合がありますので、あきらめずに、弁護士にご相談下さい。