相続放棄をする動機は様々ですが、多くの場合、プラスの財産よりマイナスの財産が多い場合に相続放棄をすることになるかと思います。相続放棄をした後は、自分には相続に関して何もしなくて済むかとも思われますが、意外な落とし穴に気を付ける必要があります。
1 相続放棄後の相続財産は、次の相続人が管理できるまで財産を管理しなければならない
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされています(民法940条)。
したがって、相続放棄をした後も、相続人となっていた者が相続財産から無関係でいられるわけではありません。具体的には、新たな相続人が相続財産を相続するまでに相続財産を管理維持する必要があります。
相続人がいない場合には相続財産は法人とされ(民法951条)、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所は相続財産の管理人を選任することになります(民法952条1項)。したがって、相続財産を放棄した者も、実際には「利害関係人」として相続財産の管理人の選任を請求することもあるということになります。
2 相続放棄後にしてはならない行為
相続放棄後であっても、原則として、その者が、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときには、相続を承認したものとみなされます(民法921条3号)。
したがって、相続放棄後に被相続人の財産を隠したり自分のために使う場合などは、相続放棄がなかったことになります。マイナスの財産を消して、プラスの財産を自分のものにしたり、費消・使用するような相続放棄をした人にとって都合の良いようなことは認められていないということです。もっとも、「悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかった」ことについては、一般的経済価額があると認めるに足りないような物品を財産目録に記載しなかったからといって、直ちに悪意により相続財産を財産目録に記載しなかったとは判断されない可能性が高いです(東京地判 平成21年9月30日)。
3 相続放棄後に注意すべきこと
以上のように、相続放棄後であっても、相続放棄をした人がすぐに相続に関して解放されるということではなく、最低限の手続きや財産の管理をする必要があります。このような場合に、どこまでの管理や手続きが許されるのかについては、個別具体的な判断を迫られることもあるかと思います。したがって、相続放棄に際してご自身の取るべき行動について迷われた場合には、確実な相続放棄実現のためにも弁護士に相談することが良いと思います。