A.
遺言書に有効期限はありません。
遺言書の作成日が古く、そのため、被相続人の死亡までの間に相続財産の評価額等が変化したというだけでは、遺言書の効力は否定されません。遺言後に被相続人が行った生前処分がその遺言内容と抵触する場合、抵触する部分の遺言は撤回したものとみなされますが(民法1023条2項)、仮に被相続人が生前に預金全額を使っていたとしても、撤回されるのは「預金をBに相続させる」という部分です。

作成当時の意思能力等に問題がある場合は格別、有効に成立した遺言書の効力を失わせるためには、遺言者が生前にその遺言を撤回しておかなければなりません。その遺言書の内容を否定する内容の新しい日付の遺言書が存在している等、当該遺言の効力を否定する事情がない限り、当該遺言書は有効とされます。
遺言書が存在していても、相続人全員が合意すれば、遺言に反する内容の遺産分割を行うことは可能です。
しかし、長男Aが拒否した場合、残るは遺留分の問題だけとなるでしょう。
なお、遺言書と異なる内容の遺産分割を行うためには、当該遺言に、遺言に反する遺産分割を禁止する旨の記載がないこと、遺言執行者が定められていないか、これが定められている場合には同執行者も遺言と異なる遺産分割協議を行うことに同意していることも必要です。

基本的に、遺言書の通りに遺産は分割される

相続人に対し、特定の遺産を「相続させる」旨の遺言は、当該遺言によって指定された遺産分割方法について、被相続人の死亡(相続開始時)とともにその指定どおりの権利移転が生じるものと解釈されます(最判平成3年4月19日判決、最判平成3年9月12日判決等)。
シンプルに言えば、特定の遺産を相続人の一人に相続させる旨の遺言がある場合、当該財産は分割済みの財産として、遺産分割協議の対象から外れてしまうのです。

被相続人がどのような思いで遺言書を書いたかで、遺産分割の内容が変わることも

もっとも、遺言書の内容は形式的な判断だけではなく、遺言者(被相続人)の真意を探求すべきものとされており、遺言書全体の記載との関連等から、その合理的意思を推測して行われます(最判昭和58年3月18日判決参照)。
遺言書全体の記載内容から、被相続人の真意は、特定の遺産を当該相続人に相続させるという趣旨ではなく、割合的な指定(AB共に均等な割合での分配を希望したもの)を旨とするものと評価されれば、上記判例の「相続させる」旨の遺言に対する評価とは異なる判断が下される可能性も皆無とは言えません。

今回の場合、遺産分割の内容が変わる可能性はある?

しかしながら、本質問の遺言は”「自宅の土地建物は長男のAに、預金は全て次男の私にそれぞれ相続させる」というシンプルなもの”ということです。
不動産はそもそも時価額の変動するものです。また、預金を生活費に充てることは、遺言の時点で想定されうるものです。
遺言者がAB間の割合的な均等を本意としていたなら、預金を生活費に用いてしまったことで将来次男Bに相続する割合が目減りした際、これを良しとせず、新たな遺言書を作成して前の遺言内容を撤回していたはずだ、との反論も想定されます。
その他の条項等に割合的な指定であることを強く窺わせるものがあるなら格別、そうでない場合、「自宅の土地建物は長男のAに、預金は全て次男の私にそれぞれ相続させる」という条項や、遺言当時の価額は釣り合っていたとの事情のみでは、本件の遺言が割合的指定を旨とするものと評価される可能性は低いでしょう。

不平等な遺産分割の場合、遺留分減殺請求や交渉等を考慮しましょう

預金が被相続人によって費消されたこと、自宅不動産が高騰したことによるAB間の不公平は、Aが遺言と異なる遺産分割に応じない限り、遺留分減殺請求の問題として解決せざるを得ません。どこから主張すべきか、Aとどのように交渉すべきか等、具体的な話し合いは弁護士に依頼するほうが賢明でしょう。