相続放棄と限定承認はいつまでできる?
(1) 権利を行使できる期間について
ア 原則
民法915条1項本文は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」と規定しています。つまり、相続放棄・限定承認を行うためには、当該相続があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
では、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とはいつの時点を指すのでしょうか。
この点について、実務上は、相続人が相続開始の原因たる事実の発生を知り、かつ、そのために自己が相続人となったことを覚知した時を指すものとされております(大審院決定大正15年8月3日民集5巻10号679頁)。 ゆえに、原則的には、上記時点が熟慮期間の起算点となります。
なお、相続人が複数いる場合には、相続人がそれぞれ自己のために相続の開始があったことを知った時から各別に起算点となります(最高裁判所判決昭和51年7月1日参照)
イ 例外
最高裁判所判決昭和59年4月27日は、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、「信ずるについて相当な理由があると認められるときには、」「熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である。」と判断しております。ゆえに、熟慮期間の起算点がずれることもございます。
また、民法915条1項但し書きは、「ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」と規定しています。すなわち、熟慮期間について、原則は前述の通りになりますが、例外的に、期間を伸長することを請求する方法も考えられます。具体的には、相続財産の状態が煩雑で、調査その他の都合上3カ月の熟慮期間では足りない場合等に、かかる請求を行うことが考えられます。
特に、限定承認を行いたい場合には、手続き的に煩雑である等の理由から、早めにお手続きに着手していただく必要がございます。
(2) 注意点について
民法921条は、法定単純承認を規定しております。ゆえに、同条記載の行為をした場合には、熟慮期間中であっても、相続放棄の手続きが行えなくなる可能性があります。
更に、相続放棄の受理がされても、後に、相続放棄の申述の有効性が争われることもあります。
準確定申告、相続税の申告・納付ができる期間
被相続人が確定申告をしていた場合には、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に、準確定申告の手続きを行う必要があります(所得税法124条、125条)。また、相続税の申告・納付についても、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に行う必要がございます(相続税法27条1項)。
上記期間内に相続税の申告をしていない場合には、一定の特例が使えなくなったり、延滞税が加算される等の不利益を被る恐れがございます。そこで、相続税について、遺産分割協議がまとまらない場合等の事由により、かかる期間を経過してしまう恐れがある場合には、各相続人が、民法に規定する相続分の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をして、申告と納税をすることをお勧めします(未分割での申告として特別な手続きが必要です)。