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認知症のお兄さんを抜いて他の相続人の間で遺産分割の話し合いをして、協議が成立したとしても、その協議は原則として無効となります。あなたのお兄さんを協議に加えるため、お兄さんの代わりに協議をする代理人を立てる必要があります。そのためには、成年後見制度を利用する方法があります。

1.遺産分割協議をするためには?

 遺産を協議により分割する場合、原則として共同相続人全員の意思の合致によって相続財産を分割します(民法907条1項)。遺産分割協議は、相続人全員が合意しなければ効力が生じないのです。共同相続人全員の合意のない遺産分割協議は、原則として無効となります。
 もし、相続人の中に、認知症等の精神上の障害により判断能力を欠く人がいる場合、その人は、判断能力がないので、自分自身では遺産分割協に合意することも反対することもできません。遺産分割協議に合意することができない人がいれば、遺産分割協議を成立させることはできません。
 そこで、相続人に判断能力に欠ける人がいても協議ができるように、また、協議において、判断能力に欠ける人の権利を保護するために、代理人を立てる必要があります。

2.成年後見人の選任

 このような場合、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てを行い、認知症のお兄さんの成年後見人を選任してもらうことが考えられます。後見開始の審判とは、精神上の傷害により判断能力を欠く常況にある者を保護するため、家庭裁判所が成年後見人を選任する手続きです(民法7条)。選任された成年後見人は、本人に代わって遺産分割協議をすることができます。
 成年後見人になる者は、親族であることが多いですが、親族だけでなく、弁護士等の専門家が選任される場合もあります。

3.成年後見人の職務

 成年後見人は、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しながら、財産の管理をしなければなりません(民法858条)。成年後見人の職務は、通常、本人が亡くなるか、能力が回復するまで続きます。たとえ遺産分割協議のために後見開始の審判を申立て、相続手続きが終わったとしても、成年後見人の仕事は終わりません。
 また、成年後見人は、本人の利益を損なうことができないので、遺産分割協議に当たっても、法定相続分を確保することが原則となります。成年後見人が、本人の相続分を無しとするような遺産分割協議をすることはできませんから、注意が必要です。