1 相続財産についてどこまでの行為が許されるか

(1)相続放棄ができなくなる場合

 相続放棄をしようとする場合でも、以下の場合のように相続財産に関与すると相続放棄をすることができなくなってしまいます。

 相続財産について、①相続財産の全部又は一部を処分したとき、②相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときについては、単純承認をしたとみなされてしまい(民法921条1号、3号)、このような場合には相続放棄はできなくなってしまいます。
 特に、①について、「処分」に当たるには、判例上、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するとされています(最高裁判所第1小法廷判決昭和42年4月27日民集21巻3号741頁)。したがって、相続放棄をしようとする者が上記のような認識を有していることが「処分」にあたる前提となるため、このような事実を知らずに相続財産の一部を処分してしまった場合でも、単純承認とはされず相続放棄が可能となります。

 また、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からないまま、遺族がこれを利用して仏壇や墓石を購入することは自然な行動であり、また、購入した仏壇及び墓石が社会的にみて不相当に高額のものでなく、それらの購入費用の不足分を遺族が自己負担としている事案について、社会的にみて不相当に高額でない金額による葬儀費用、仏壇や墓石等の購入費用の支出については支出についても、「処分」にはあたらない判断されています(大阪高決平成14年7月3日家裁月報55巻1号82頁)。

(2)例外的に「処分」にあたらない場合

 さらに、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすること場合には、例外的に「処分」にあたりません(民法921条1号但書き)。
 この場合の、保存行為とは、財産の現状を維持する法律行為をいいます。したがって、家屋修繕や消滅時効にかかった債権の中断、期限の到来した債務の弁済、腐敗しやすいものを売ったりする場合には「処分」にあたらないため、相続放棄をすることができます。