2 相続財産である不動産の6つの評価方法

 相続財産である不動産を評価する方法としては、主に、①公示価格、②都道府県地価調査標準価格、③固定資産税評価額、④相続税評価額(相続税路線価)、⑤不動産業者による査定、⑥裁判所で行ってもらう鑑定、が考えられます。以下、各方法について簡単にご説明させて頂きます。

① 公示価格

 国土交通省の土地鑑定委員会が、特定の標準値(主として都市計画区域内)について毎年1月1日を基準日として公示する価格です。毎年3月下旬に公表され、インターネット(国土交通省の土地総合情報システム)でもみることができます。
 もっとも、標準地として指定された土地のみしか公示されておりません。

② 都道府県地価調査標準価格

 都道府県知事が、特定の標準値(主として都市計画区域外)について毎年7月1日を基準日として公表しています。
 毎年9月下旬頃に公表され、インターネット(国土交通省の土地総合情報システム)でみることができます。
 ただし、基準値として指定された土地のみしか公表されないことに注意が必要です。

③ 固定資産税評価額

 土地家屋課税台帳等に登録された基準年度の価格又は批准価格で、公示価格の70%をめどに設定されています。不動産ごとにその価格を求めることができますが、評価替えは3年に一度しか行われず、大量の土地を限られた時間で評価していることから、適正な時価と乖離していることもあります。

④ 相続税評価額(相続税路線価)

 国税庁が、毎年1月1日を基準日として定める、市街地的形態を形成する地域の、路線に面する標準的な土地の評価額のことで、公示価格の80%をめどに設定されています。評価替えは毎年行われ、相続税・贈与税等を賦課する際の基準となっています。

⑤ 不動産業者による査定

 お好きな不動産業者に無料査定を頼んで頂くという方法もあります。インターネットや電話等で頼めるため、気軽に利用しやすいツールともいえます。しかし、査定を依頼した人が「できるだけ安く(高く)査定してください。」等と述べると、不動産業者としては多少なりとも依頼者の意向を反映した査定結果を出さざるを得ないことも少なくないので、他の相続人が納得する結果になるかは事案次第といえます。

⑥ 裁判所で行ってもらう鑑定

 交渉での話し合いがまとまらず、裁判所において遺産分割調停等を申し立てた場合、当該調停においても不動産の評価についての合意がなされない場合には、裁判所が不動産鑑定の専門家である鑑定士を選任し、不動産の評価を行うという方法がとられます(家事事件手続法64条1項、民事訴訟法212条等)。鑑定は、取引事例比較方式、原価法、収益還元法の3つの方法を併用して行われ、最も信頼できる方法ともいえるでしょう。
 しかし、鑑定を行うには、少なくとも数十万円の費用が必要となることが多いところ、その費用は、当該遺産分割調停等の事件当事者の負担となります。各当事者がそれぞれの法定相続分に応じて負担するのが原則とされますが、あらかじめ費用を予納しない限り鑑定は実施されないので、他の相続人が費用負担を拒む場合には、鑑定を希望する当事者がとりあえず費用全額を予納することになります。

3 最後に

 主な不動産の評価方法は以上の通りですが、どれが一番正しい、ということはなく、要は相続人間で納得のいく合意ができるかどうかという問題となります。相続財産である不動産の評価額に争いがある場合には、当事者間の交渉の中で、③の固定資産税評価額や④の相続税評価額、⑤の不動産業者による査等、各当事者がそれぞれ自身の主張に沿う評価額を提示しながら、最後には全員が少しずつ譲歩し合って、妥当な落としどころを見つけていくことも多いと思われます。
 相続人間で意見の対立が生じるケースですと、親族で争うのは恰好が悪いと、簡単に諦めてしまわれる方も少なくないようですが、大切なことだからこそ、きちんと話し合って、公平な分配を行うことは正しいことだと思います。 

 お困りごとがございましたら、是非お気軽にご相談ください。

※参考文献
野村創ほか(2016)『事例に学ぶ 相続事件入門』相続事件研究会編,民事法研究会