実務的には遺産分割の基準時は「遺産分割時」であるため、① 被相続人が死亡した際に被相続人が所有していた財産であり、かつ ② 遺産分割時にも存在する未分割の遺産が遺産分割の対象となります。
 相続人の調査と並行して「遺産の範囲」を確定させるために下記の調査を行う必要があります。

1.不動産 

・登記事項証明書現在の権利関係を確認するために必要です。
・固定資産税評価証明書不動産の評価額の一応の目安を調べるために必要です。
また、相続登記の際にも必要となります。

 その他にも名寄台帳、固定資産税納税通知書、住宅地図、ブルーマップ、登記済証、登記識別情報、公図、不動産売買契約書、過去の遺産分割協議書等があれば参考になります。また、収益物件等がある場合には現況や紛争の有無等を確認する必要もあります。

2.金融資産

① 預貯金

 自宅、別荘、貸金庫を捜索して、通帳、キャッシュカード、定期預金証書、利息計算書の存在を確認します。インターネット銀行の場合には紙媒体の資料がない場合があるので、被相続人が利用していたパソコン等を精査する必要があります。
 そして、上記の資料がある金融機関に照会して残高証明書を取得します。

② 投資信託 

 口座開設に関する書類の控え、目論見書、運用報告書、取引報告書、取引残高報告書、特定口座年間報告書等の有無を確認する必要があります。
 また、預金通帳に配当金に関する入金履歴がないかどうかを確認する必要があります。

③ 上場株式 

 証券会社からの郵便物、配当金・売却金の入金履歴、確定申告書を確認する必要があります。

④ 保険

 保険証書を確認する必要があります。通帳からの引き落とし履歴、保険会社のカレンダー等から保険の存在が明らかになる場合もあります。給与所得の源泉徴収票や所得税の確定申告書の生命保険控除欄から保険会社を確認することができる場合もあります。
 死亡保険金が遺産として扱われるか否かは契約内容によって異なります。

3.動産

① 自動車

 購入時の注文書、請求書及び領収書、車検証、自動車税納税証明書、自動車保険証書を確認する必要があります。家族が使用していても被相続人名義のものは相続の対象となります。

② 現金、貴金属、書画骨董

 蔵、貸金庫、納戸、仏壇を捜索する必要があります。

4.非上場株式

 株券、株主名簿、法人税申告書の「同族会社の判定に関する明細書」を確認する必要があります。

5.その他財産

① 貸金庫

 貸金庫の鍵、セーフティカードの有無を確認します。貸金庫の利用料が通帳から引き落とされている場合があります。

② 賃借権

 賃貸借契約書、全部事項証明書、賃料の引き落としが記載された通帳履歴を確認します。

③ 特許権

 特許証、補償金について定めた契約書を確認します。

④ 著作権

 所得税確定申告書で印税収入を確認します。

⑤ 電話加入権

 NTT西日本・東日本の加入電話回線を架設する権利です。電話会社の請求書、電話料の引き落としの履歴を調査することで確認できます。

6.祭祀財産

 墓、仏壇等の祭祀財産は、遺言書がある場合には遺言書に従って承継方法が定まりますが、遺言書が無い場合には「慣習に従って祖先の祭祀を主宰するべき者が承継します(民法897条1項)。慣習が明らかではない場合には(決まらない場合には)、家庭裁判所に「祭具等の所有権の承継者の指定の調停」を申立てて承継方針を定めます。

7.相続債務

 借入金、未払金、未払公租公課、預かり保証金、保証債務の有無を確認します。相続開始後の葬式費用等については領収書等の記録を残しておくべきです。