2 かつての取り扱い

 戦前の民法では、相続財産から葬儀費用を拠出した例で、「道義上必然の所為」と評価していました(東京高判昭和11年9月21日)。この裁判例は、相続財産から葬儀費用を供出したことが単純承認にあたるか否かを判断した事件なので、葬儀費用の負担を誰がすべきか正面から判断したものではありませんが、文脈上、相続財産から負担して差し支えないとまでいえそうです。

3 近年の取り扱い

⑴ 戦後の裁判例は、裁判所が相当と判断した範囲内で相続財産による負担を認めた裁判例(東京家審昭和33年7月4日)や、相続人全員が相続放棄をした場合に裁判所が相当と判断した範囲内で相続財産から葬儀費用を負担することを認めた裁判例が出た(東京地判昭和59年7月12日)一方で、近年は主宰者の負担を認める裁判例が出ています。

⑵ 例えば、名古屋高判平成24年3月29日では、特段の取り決めがない場合には

「追悼儀式に要する費用については同儀式を主催した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解する」

と、葬儀費用と埋葬費用とを分けて負担すべき者についての判断を示しました。
 葬儀費用を主宰者が負担すべきと判断した理由について、上記の裁判例では

「亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であ」る、

と述べています。
 実質的に葬儀を執り行った人が規模や費用を決めているからその責任を負うべきであるとする一方で、単に葬儀に参加しただけの相続人は葬儀費用を負担しなくてよいということになります。

 無論、被相続人が生前に葬儀屋と契約を取り交わしていたり、相続人間で葬儀費用の負担の仕方について合意が成立していたりするような場合には前提が異なりますので、全てのケースで上記の裁判例の考え方が通用するわけではないという注意が必要です。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。