皆様、こんにちは。

1.はじめに

 平成28年7月5日付けの朝日新聞のニュースリリースによれば(※)、法務省が、相続の権利を持つ人(相続人)全員の氏名や本籍などの情報をまとめた証明書を発行する制度の発足に向けて準備を進めているとのことです。

※相続情報の証明、新制度で省力化 証明書1枚で手続き可:朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASJ755QBRJ75UTIL038.html

2.現在の取り扱い

 相続に伴う不動産の所有権移転登記、預金口座の解約(預金の引き出し)などでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等や相続人の戸籍謄本の提出が求められる場面があります。中には市区町村で発行してもらってから3ヶ月~6ヶ月以内のものを提出すべき、といった期限が切られることもあります。

 そのため、各手続毎に戸籍謄本を取り直さなければならない事態が頻出し、手続きを行う相続人の方々にとって、時間的、費用的に少なからず負担となることがあります。

3.気になっている点

 今回検討されている新制度は、一度必要な書類をそろえて法務局に提出すれば、以後は証明書1枚で足りるようになる、という手間暇の省略化が意図されていますが、各所に戸籍謄本等を提出しなければならない相続のケースでは便利なことだと思われます。

 ただ、被相続人の死亡後に(法定)相続人の構成が変更されることがあり得ます。例えば、遺産分割協議中に相続人の一人が亡くなって相続人の子へ代襲相続が生じるケースなどが挙げられそうです。このような場合は情報の内容に変更が生じた度に作り直してもらうしかないと思われますが、相続人情報の変更が完了する前にしれっと変更前の情報のままの証明書が提出されてしまった場合にどのような扱いになるのでしょうか。戸籍謄本等の提出が求められている現状でも似たような問題はありえますが、そのため発行されてから3~6ヶ月以内の戸籍謄本等の提出が求められているではないかと考えられます。遺産分割協議やそれに関連する争い何年もかかる可能性もあるので、適宜相続人情報の更新の有無が確認される必要があるよう思われます。とすると、法務局や金融機関等の各所へ戸籍謄本等を提出する代わりに、法務省へ何度か戸籍謄本等を提出することになる、という可能性も出てくる気がして直ちに省力化へつながるのか、まだよくわかりません。

 また、所有者不明の不動産を解消する狙いも併せて挙げられているようですが、そもそも相続人らが相続財産であることを知らない、わざわざ相続して固定資産税の負担を背負いたくない、といった要因も考えられるので、果たして上記の狙いに向けた効果を上げられるのかについても、想像がつきません。
 法務省が今後、パブリックコメントを実施した上で、改正案を検討するようですが、具体的な制度(案)がどれだけのことを想定して作られてくるのか気になるところです。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。