相続人が、被相続人には少額の借金しかないと思って弁済した後に、高額な借金の存在が判明した場合、借金を弁済した相続人は、相続放棄はできるのでしょうか。

 民法には、「法定単純承認」(民法921条)の制度があります。
 法定単純承認とは、一定の事由があると、当然に単純承認の効果、すなわち、被相続人の一切の権利義務を包括的に承継することになってしまいます。被相続人に借金があった場合、その相続人は、自分の財産をもって借金を弁済しなければならなくなってしまいます。

 法定単純承認となる一定の事由とは、相続人が、相続財産の全部または一部を「処分」をすることです。しかし、「保存行為」及び民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることはこの限りでない(民法921条1号)とされています。

 そこで問題は、相続人の債務の弁済が「処分」なのか、「保存行為」なのか、という点になります。
 結論から言うと、債務の弁済そのものは「保存行為」なので、法定単純承認の効果は発生しません。

 民法921条1号の「処分」とは、財産の現状、性質を変ずる行為、具体的には、相続財産である家を取り壊したり、売却したりすることです。

 同条の「保存行為」には、期限の到来した債務の弁済や腐敗しやすい物の処分などが含まれます。

 債務の弁済だからと言って、相続財産の一部を債務の弁済にあてた場合、その弁済にあてた相続財産を「処分」したことになってしまうので、注意してください。弁済をする場合は、相続人の自分の財産で債務の弁済をしてください。

 以上のように、債務の弁済をしたとしても、相続放棄は可能です。とはいいましても、後で借金が判明したときにかなり困惑するでしょうから、被相続人に借金があると疑われる場合には、慎重に財産調査を行い、しっかりと財産調査を行ったほうがよさそうです。