驚愕の事実
ある日の昼下がり、A子さん(80歳)は居間でのんびりとくつろいでおりました。その時突然、消費者金融Zから電話がかかってきて、「A子さんのお兄さんであるB男さんが亡くなり、B男さんの奥さんやお子さんたちは相続を放棄しました。B男さんのご両親も既に他界されているので、B男さんの唯一の兄妹であるA子さんが、B男さんの遺した債務を全て相続することになります。」と言ってきました。
B男さんが22歳の時に実家を飛び出して音信不通になってから、A子さんはB男さんがどこで何をしているのか全く知らず、B男さんが家庭を築いたことも亡くなったことも知りませんでした。A子さんはこの驚愕の事実にすっかりおろおろしてしまいました。
さて、A子さんはB男さんの遺した債務を相続しなければならないのでしょうか。
まず一般的なお話を致しますと、被相続人が亡くなられた場合、第1順位の相続人は、被相続人の配偶者および子供たちです(民法887条、890条)。被相続人に子供がいなければ、被相続人のご両親も相続人となります(民法889条1項1号)。被相続人のご両親も既に亡くなられているのであれば、被相続人の兄弟姉妹も相続人になります(民法889条1項2号)。
ちなみに配偶者は常に相続人になります(民法890条)。
したがって、本件の事案において、B男さんが残した債務を負わなければいけないのは、基本的にはB男さんの奥さんとお子さんであり、A子さんは債務を負う必要はありません。
しかし、上の事案では、B男さんの奥さんもお子さんも相続放棄をし、B男さんの両親も既に他界しているため、B男さんの兄妹であったA子さんに相続の順番が回ってきてしまったのです。
※なお、B男さんに孫がいた場合には、B男さんの孫がB男さんの債務を代襲相続することになるのかというと、そうではありません。相続放棄の場合には代襲相続の適用がなく(民法887条参照)、被相続人の子が相続を放棄したら、孫が相続することはなくなります。
もっとも、民法915条は、相続の放棄は、「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に」しなければならない、と定めています。A子さんは、B男さんの奥さんやお子さんたちが相続の放棄をしたことはおろか、B男さんが亡くなったことすら知らなかったのですから、消費者金融Zからの電話が来た時点では、「相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」を経過しておらず、相続を放棄することができます。
A子さんのその後
弁護士事務所の無料相談に行ってアドバイスを聞いたA子さんは、すぐに裁判所に行き、相続放棄の申述をし(938条)、無事、受理されました。こうして、A子さんは無事に相続放棄をすることができ、平穏な老後生活を取り戻したのです。
相続に関する紛争は複雑で急を要する問題も多く、のんびり放置していると大変な事態になることがあります。弊所では、事案を細かくお聞きして、何が問題となりうるか、今何をしなければならないかを詳しくご説明させて頂きます。是非一度ご相談ください。