Q: 父が亡くなり、遺品の整理をしていたところ、1通の遺言書が出てきました。その内容は、次男である私に土地建物を相続させるというものだったのですが、父の署名押印の横に、母の署名と押印がされていました。その他に遺言事項はなく、土地建物は父の単独名義なのですが、共同遺言として無効になるのでしょうか

 民法975条は、「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定しており、共同遺言を禁止しています。

 同一証書上に、二人以上の遺言意思が記載されてしまうと、遺言の撤回や、条件付遺言の場合の効力、遺言の効力発生時期等、法律関係が複雑となることや、他の遺言者の意見の影響を受けるおそれがあること等から、これを禁止したものと理解されています。

 遺言の有効性が問題となるのは、通常遺言者の死後であり、裁判所も内容が不明確な場合等には遺言者の合理的意思を解釈するなど、なるべく有効にしようとするむきがありますが、共同遺言については比較的厳格に効力が判断されています。

 遺言の内容が完全に独立したもので、それぞれ署名押印等の要件を充足する場合であっても、共同遺言として無効とされる可能性があります。内容的な関連性が一切存せず、書面こそ一枚であるものの、明確に区分けされている場合、有効とされる余地もありうるでしょうが、「他の遺言者の意見の影響を受けるおそれ」との趣旨に鑑みると過信は禁物です。

 2人で同一書面上に行った遺言内容が完全に独立したものであり、その一方は署名押印等の要件を充足し、もう一方は署名要件を欠く場合についても、共同遺言として、無効とした判例もあります(最高裁判所第2小法廷昭和56年9月11日判決)。

 作成名義の異なる遺言書が、別々の紙につづられた上で、契印がされている場合について、「容易に切り離すことができる場合には、共同遺言にあたらない」とする判例もあります(最高裁平成5年10月19日判決)。

 他方で同一書面上に2人の署名押印があり、形式的には共同遺言の方式をとっている場合にも、その実質面を考慮し、単独の自筆証書遺言としての有効性を認めた審判例もあります(東京高裁昭和57年8月27日決定)。

 この審判例では、

① 被相続人Xは、生前、つねづね、A(遺言書に署名されているもう一人の者であり、)との間でいずれかが死亡したときは、土地建物はそれぞれの子らに分与し、残余の財産は、Aが取得し、又はXに留保するようにしようという趣旨のことを話し合っていた

② 被相続人XとAの共同の遺言書に作成するということは格別話し合ったことはなく、本件遺言書は、これを作成することについて、Aには何ら話をせずに、Xがすべて単独で作成し、全文、日附及び自らの氏名を自書して自己名義の押印をし、Aの氏名もXが書き、A名義の押印もXがした

③ Aは、被相続人が本件遺言書を作成したことをXの死後まで全く知らず、本件遺言書に自らの氏名が記載されていることも知らなかった

④ 本件遺言書に記載された不動産はすべて被相続人Xの所有であり、Aが所有あるいは共有持分を有するものはない

と細かく事実認定されています。

 設問はこのうち④の点を抽出して作成したものですが、必ずしも同様の判示が下される保障はありません。後の紛争を未然防止するためには、一枚の書面には一人の遺言とするほうが賢明です。設問への回答としては、「争う余地はある。」ということになります。