Q:父が亡くなったあと、父の預金を見ると、僅か1年間に300万円以上が引き出されていました。相続人である兄弟で親族会議を開いて確認すると、どうやら長男が引き出していたようで、その理由は、父の面倒を見るのにかかった費用だというのです。確かに、父は、長男と同居していたのですが、痴呆症でもないですし、特に面倒をかけたということもなかったはずです。長男が勝手に使い込んだに違いありません。
 長男が許せません。取り返してください。犯罪者なので告訴もしてください。

A:相続人の一人が使い込んだというご相談は、本当に多いです。まぁ、こういう相続人が居なければ話合いが穏便に進むので弁護士のところへ来ることもないのかもしれません。
 まず、告訴ですが、告訴は、犯罪により害を被った者(被害者)がすることが出来ます(刑事訴訟法230条)。預金を引き出す犯罪の被害者は金融機関になるので、相続人が告訴することは出来ないことになります。

 では、どのように解決することが考えられるでしょうか。
 長男が相続分を越えて使い込んだのだから、その分を返してもらいというお気持ちを法的にどう解決するのかという問題です。

 遺産の分け方に関する争いを解決する方法として遺産分割調停があるのですが、使い込んだ預金を含めて遺産分割調停で解決することは基本的に認められません。死亡時に残っている遺産について遺産分割調停を行うとともに、別途、使い込みに関して損害賠償請求や不当利得返還請求を行うことになります。調停と訴訟の2つの手続きを行うことになり、時間も費用も掛かってしまいます。
 もっとも、使い込みではなく、父から贈与されたと争われている場合には、特別受益を受けていたとして遺産分割調停で話し合うことが出来ますが、使い込むような人間が不利な主張をしてくることはないでしょう。
 争われ方としては、「そもそも、預金の引き出しには関わっていない。父が自分でおろしたのではないか。」、「引き出すのを手伝っただけで父がどのように使ったかは知らない。」、「父に頼まれておろしただけだ。」、「父の為に使った。」などというのが多いです。

 金銭の動きは通帳を見れば容易に判明しますが、密室で行われ、しかも、被相続人が無くなっていることから、誰がどのような目的で引き出し費消したのかは容易にはわかりません。預金の払戻請求書の筆跡、日時、被相続人の健康状態、生活状況などの事情から推認する他ないことがほとんどです。
 詳細に事実関係を見ていけばどこかに矛盾が生じていることも多く、諦めずに何か関係のあると思われる資料を精査してみてください。わからなければ、資料をもって弁護士などへ相談してみることも検討すべきです。
 難しいかもしれませんが、多少無理をしてでも被相続人とは日頃から連絡を取っておくことが一番でしょう。