皆様、こんにちは。

1.はじめに

 民法といえば債権法改正が先般の国会で審議入りできなかったとの報道が記憶に新しいかと思われますが、実は今年の2月から法制審議会で相続法制の見直しが始められております。
 まだ法制審議会での議論が継続されている状況にあるため、具体的な改正案の策定までには至っておりませんが、どのような項目が議論されているのか、今回はいくつかのトピックについてご紹介します。

2.寄与分の類型

(1) 配偶者の居住権の保護

 夫婦のうち一方の配偶者が亡くなった場合、残された他方の配偶者はそれまで暮らしていた住まいに引き続き住みたいと希望することが想定されるところ、高齢化社会が進み他方配偶者が新たな生活環境を整えたり、その後の生活を維持することが困難であるケースが増えていることから、その他方配偶者の保護の一環として、住まいの居住権を保護する法整備が必要ではないかという議論です。

 法制審議会が検討している方策としては、㋐遺産分割が終了するまでの短期的な居住権の保護と㋑遺産分割終了後以降を踏まえた長期的な居住権の保護の二つが考えられています。㋐は被相続人が住んでいた建物に他方配偶者も一緒に暮らしているような場合、遺産分割協議がまとまるまでの間の建物の居住権を認める方策です。㋑は遺産分割協議がまとまった後も継続的に同じ建物で暮らしたいという意向に応える方策もので、一定期間の居住権を認めようとする方策ですが、その分相続分に反映するなど、きめの細かい議論が出ています。

 元々、法律上存在していなかった権利であり、最高裁判例の解釈論で短期的な建物使用貸借契約として認められるにとどまっていたところを制度的に確立していくお話となるので、かなり理解の難しい議論となりそうな予感がします。

 (2) 配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現

 配偶者が亡くなって相続をする場合、現行の法律では法定相続分は2分の1となっています。もっとも、婚姻期間が長期間にわたっており、亡くなった配偶者の財産形成や維持に貢献しているケースもあれば、婚姻期間が短期間で財産形成や維持に貢献していないケースもあり得るため、一律の割合としてしまうこと現行の制度では当事者間の実質的公平が図れないのではないかとの問題意識がありました。

 また、離婚における財産分与は夫婦の共有財産を2分の1ずつ振り分ける考え方が定着しており、相続における配偶者の法定相続分は実質的には離婚に伴う財産分与で得られる割合と変わらず、亡くなった配偶者から特別引き継ぐものがあったと言えないのではないかとの指摘もありました。

 法制審議会が考えている方策として、㋐遺産のうち夫婦の財産分与の対象となる実質的夫婦共有財産部分の清算を先に行い、残った遺産を遺産分割協議の対象とする(ただし、配偶者は先に財産分与を受けているので法定相続分は減少する扱いとする)方法、㋑遺産の属性に応じて計算された一定の金額を、残された配偶者の具体的相続分に加算する方法が挙げられています。

 ㋐の方法については、残された配偶者が財産の形成や維持にどれ程の貢献をしていたのかという点で主張、立証の作業が必要となり、相続の紛争の複雑化や長期化が懸念されるとの指摘があり、㋑残された配偶者の具体的相続分に加算する金額の計算式は計算式では実質的夫婦共有財産と被相続人固有の財産とに分けて算定するものが考案されているところ、実質的夫婦共有財産と被相続人固有の財産とを整理する段階で相続人間の主張、立証をめぐる紛争の複雑化や長期化が懸念されており、こちらも難しい議論となりそうです。

3.最後に

 その他、寄与分制度、遺留分制度の見直しや遺言制度の見直しなど、かなり影響の大きそうな議題も挙げられているようですが、今後また機会があればご紹介したいと思います。

 今回もお付き合いいただきありがとうございました。