皆様、こんにちは。
前回は有責配偶者からの離婚請求についてお話ししました。
前回のタイトルそのものは実務上広く使われている言い回しですが、今回のタイトルは私が勝手に作った造語です。
すなわち、今回は、離婚原因を生み出した責任を全てもしくは専ら担っている配偶者が、他方配偶者に対して通常どおり婚姻費用の分担を請求することが認められるのかについてお話しいたします。
実務上の扱い
結論から先に申し上げますと、有責な配偶者が婚姻費用の分担を求めた場合にもらえるのは、自らが監護している未成熟子の養育費に該当する範囲の金員に限られます。つまり、自分の生活費に相当する金員はもらえない、というのが実務上の運用です。
それでは実際の裁判例を見てみたいと思います。
裁判例
(1) 一つ目は、勝手に実家に帰って音信不通となった甲(妻)が婚姻費用を求めたという事案です。
甲は以前に乙(夫)から飲酒して深夜帰宅することをとがめたために暴行を受けて実家に帰ったことがありました。やがて、乙からの申し入れで2人の共同生活を再開し、暴力もなく平穏に過ごせるようになりました。ところが、乙がそう鬱病を患って、入院治療が必要となったため、同じ職場に勤める甲に会社から入院の同意をもらうように頼んだところ、甲は何も告げずに子供を連れて自らの実家に帰ってしまったのです。
驚いた乙は同居を求めましたが、甲は全く応じず7年以上音信のない状態が続きました。
甲とよりを戻すことを諦めた乙は別の女性と甲との離婚を前提とした交際をはじめるようになりました。乙は当該女性との結婚のために乙に対して離婚調停(不成立)及び離婚訴訟を起こしたところ、甲がそれに対して乙に婚姻費用の分担を求めてきたのが本件です。
裁判所は、別居を強行し、同居の要請にも耳を貸さず、同居生活回復のために真摯な努力を全く行わなかったために別居せざるを得なかった場合には、婚姻費用分担を考えるにあたって少なくとも自分自身の生活費にあたる部分の請求は権利の濫用にあたるから許されない、と判断しました(東京高裁昭和58年12月16日決定)。裁判所は子供の養育費(監護費用)に相当する部分の婚姻費用の支払いを認めるに止めたのです。
(2) 二つ目は、浮気をしていた妻が婚姻費用を求めた例です。
家を突然出て行ったA(妻)を調べてみたところ、子を連れて会社の同僚との同棲を開始し、その上B(夫)に婚姻費用を求めてきたという事案でした。
裁判所は、Aの不貞行為を認定した上で、子の監護費用に相当する部分だけを婚姻費用として算定し、Bに支払いを求める審判を出しました。つまりのこの事案でも、妻自身の生活費にあたる部分は算定の対象から外されました(東京家裁平成20年7月31日審判)。
裁判所は、自分の都合で別居を押し進めたにもかかわらず、自分の生活費の負担を他方配偶者に求めるのはあまりにも虫のいい話なので、自分の生活費は自分で負担しなさい、と考えています。この考え方は法律の専門家であるなしに関わらず納得しやすいと思います。特に今回ご紹介した裁判例は、家を出た妻側も仕事をしていて充分に自活できるケースだったので、なおさら夫に生活費を負担してもらう必要性が少なかったといえます。
裁判所の傾向を踏まえて、自分から家を出たら婚姻費用が減額されてしまうと見るのか、それとも勝手に家を出ても子供の監護費用部分は確保できると見るのか、結果のとらえ方については人それぞれ見方が別れそうです。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。