これから離婚しようと考えている妻にとって、離婚後どうやって生計を立てて行こうか、というのは、現実的に解決しなければならない問題ですよね。そんな時、夫からもらえる養育費は、大切な収入源となります。

ところが、「多額の借金があるから、養育費なんて払う余裕はない。」と主張して養育費の支払いを拒否する夫がよくいます。

今の不況の中、借金をしている人なんて、そんなに珍しくもありません。また、夫の借金癖が離婚の一因となる場合もよくあります。

ですから、仮にこのような主張が通ってしまうのであれば、多くの場合、夫の借金癖にも耐えて節約を重ねてきた妻が、結局損をすることになってしまいます。

 裁判所は、当然、このような主張を認めていません。

 例えば、大阪高等裁判所平成6年4月19日決定は、以下のように述べて、夫に多額の借金があっても養育費支払義務は否定されないとしました。

・負債を抱えているとしても、親の未成熟子に対する扶養義務は、いわば一椀の飯も分かち合うという性質のものであり、親は子に対して自己と同程度の生活を常にさせるべきいわゆる生活保持義務なのである。
・負債を抱えていることは、考慮すべき諸般の事情のうちの一つであるにすぎず、その返済のため経済的余裕がないからとして、直ちに…(中略)…養育費支払義務を否定する根拠とはならないのである。

 「一椀の飯も分かち合う」なんて、古風な言い方ですが、要は、いくら生活が苦しいと言っても、親子(別れた夫と子ども)が同じ生活レベルを保てるように、養育費を支払わなければならない、ということです。借金してでも贅沢な暮しをしている夫なら、子どもも同じように贅沢に、ということです。

 さて、ここで仮に、養育費算定表通りの養育費を支払ってもらえると、夫から約束してもらえたとします。でも、借金がある夫の事だから、借金返済を優先して、養育費を支払ってくれない可能性はあります。そこでどうやって養育費を回収するかですが、強制執行することになります。強制執行の対象としては、夫が得る給与が考えられます。養育費の支払いを確保するために給与を差し押さえる場合、給与から税金・社会保険料を控除した残額の2分の1まで差し押さえることができます。

 また、仮に夫が借金で首が回らなくなって破産したとしても、(借金などの通常の債務は支払い義務が免除されるのですが、)養育費の支払い義務は免除されません。破産手続中は強制執行ができませんが、手続終了後は強制執行により給与から養育費を回収することができます。