婚姻費用の支払いを求める調停を申し立てた際、相手方から、「妻が家を出るときに預貯金を持ち出したので、婚姻費用は支払えない」「まず預貯金から生活費を支出するべきだ」という主張が出てくることがあります。
相手方からすれば、「預貯金が●百万円もあるのに何で生活費を払わないといけないんだ」と納得できない思いがあるのでしょう。
もっとも、実務では、婚姻費用は基本的には相手方の月々の収入から分担するべきであり、預貯金の持出しは、離婚の場合の財産分与として考慮すれば足りるとされることが多いと思います。
その主な理由としては、
① 夫婦の預貯金というのは共有財産であり、その最終的な帰属については財産分与で決めるべきである
② 預貯金から生活費の支出をするべきであると考えると、相手方が月々の収入を浪費した場合、結果的に婚姻費用を請求する権利者の財産分与請求権が侵害されることになる
③ 婚姻費用分担請求権は4分の3に相当する部分の差押えが禁止される差押禁止債権なので、預貯金についての相手方の返還請求権と相殺するという処理は適当でない
などがあげられます。
婚姻費用を請求される側の立場で事件を受ける際も、「婚姻費用は月々きちんと支払ったほうが良いですよ、その代り財産分与できちんと主張しましょう。」と説得させていただいています。