婚姻費用分担義務は、夫婦と未成熟子によって構成される婚姻家族がその資産、収入等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用と説明されます。夫婦が別居した場合に請求することが一般的です。

 この婚姻費用の支払額について、はじめは夫婦で話し合いをするのが通常ですが、話し合いがまとまらない場合には、弁護士に相談に来られる方が多いです。

 弁護士が相談を受けると、まずは算定表を用いて原則的な支払額を算出します。

 この算定表というものは、お互いの収入や未成熟子の人数、年齢等を機械的にあてはめて、妥当な支払額を算出するものです。

 ただ、この算定表を機械的に用いると、著しく不平等になる場合があります。

 その一つは、別居後に、義務者が権利者の住居の家賃を支払っている場合です。もとの家の賃貸借契約の名義人が義務者となっている場合には、きちんと明け渡しをするまでは、契約の責任が、名義人である義務者にありますから、これを逃れることはできません。

 そして、上記算定表で算出される婚姻費用の中には、権利者の住居費も含まれています。

 そうすると、この場合に算定表で算出された額を支払うこととなると、住居費も含んだ婚姻費用を支払う一方で、現在において権利者が住んでいる住居の家賃も負担することになりますから、住居費を二重取りされることになってしまうのです。

 この場合には、通常、算定表によって算出される支払額から、事実上支払っている、もとの家の家賃分を控除することになります。

 ただ、もとの家が持家で、住宅ローンを支払っている場合には異なる取り扱いがなされます。なぜなら、家賃の場合とは異なり、住宅ローンの支払は、自己の財産の形成に貢献するという側面もあるからです。その場合には、住宅ローン支払額の何パーセントかを控除するという取扱いになります。

弁護士 吉田公紀