1 法律論のにわか仕込みは大変危険

 最近は、世の中がネット社会化しているためか、一般の方でもトラブルの際に自ら法律を調べて対応される方が多くなってきたように感じられます。

 ご自身でお調べになる姿勢はとても素晴らしいのですが、法律実務は、条文の文言のみならず、複雑な解釈や難しい判例によっても運用されているので、法律の規定だけを読んでにわかに対応するのは大変危険です(実際に、当事者の方が間違った法律論を持ち出したがために、かえって相手方を怒らせてしまい、紛争が泥沼化する例がよくあります。)。

 今回は、法律の条文の文言だけを読んでいると失敗してしまいそうな例を、離婚をテーマに一つ取り上げたいと思います。

2 法律上の離婚原因

 夫婦の一方が離婚を希望する場合で、双方の話し合い(調停を含みます)では離婚の合意ができなかった場合、最終的には裁判で離婚の可否が判断されます。

 その際、民法の第770条という条文に記載されている離婚原因があれば、原則として、離婚が成立するという判断がなされることになります。

3 不貞行為

 この離婚原因の中に、「配偶者に不貞な行為があったとき」という離婚原因があります(民法770条1項1号)。ご存知の方も多いかと思いますが、この「不貞な行為」というのは、配偶者以外の異性と性的関係を持つこと、すなわち俗に言う浮気・不倫というやつです(諸説ありますが、ここでは性交渉があった場合を指します。)

 夫が浮気をした場合を例にとると、妻が「浮気なんて許せない!離婚よ!」なんて言う場合には、この「配偶者に不貞な行為があったとき」に該当するというのは、違和感はないかと思われます。

4 有責配偶者からの離婚請求

 それでは、一方の配偶者が浮気した場合(浮気した配偶者を有責配偶者と言います)、その有責配偶者は、自ら浮気した事実が「配偶者に不貞な行為があったとき」に該当することを根拠として、他方の配偶者に裁判上の離婚を請求できるでしょうか。

 民法の条文上は、離婚原因としては単に「配偶者に不貞な行為があったとき」としか書かれておらず、「配偶者」は浮気をされた側に限定はされていないのですから、この条文を読む限りは離婚を請求できるようにも思えます。実

 この条文をお調べになられたのか、浮気をした当事者の人で離婚できると思って弊所に相談に来られる方もいらっしゃいます。

5 裁判実務

 しかし、結論から言うと、原則としては、有責配偶者からの裁判上の離婚請求は認められないというのが現在の裁判実務(判例)です。

 これについては、「そりゃそうだろう。」と思われた方も多いのではないでしょうか。もし有責配偶者からの裁判上の離婚請求が原則的に認められるということになれば、「(妻・夫と)別れたくなったら浮気すればいいじゃん!」という理不尽な発想が横行してしまいますよね。そこで、裁判所が、「配偶者に不貞行為があったとき」という条文の文言を合理的に解釈した上で運用しているのです。

6 まとめ

 このように、法律実務は、条文の文言だけから解釈運用されているわけではない(もちろん条文にどう書かれているかはとても重要なのですが)ので注意が必要です。

 さらに言えば、別の離婚原因として「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という抽象的な離婚原因があったり、また、「配偶者に不貞な行為があった」場合でも、個々の案件に応じて裁判所がその裁量で離婚の請求を棄却することができたり(民法770条2項)、と実際に裁判上の離婚を成立させるには複雑多岐な法的判断が必要なのです。

 ご自身で下手に対応すると紛争が泥沼化しがちです。当事務所には、離婚に関する問題を多数扱っている弁護士がおりますので、お気軽にご相談下さい(弁護士法人ALG&Associates 横浜法律事務所は、横浜駅 きた東口(地下広場)から徒歩7分のところにあります)。