「ここに来るまで三つの法律事務所に行ったが、勝ち目がないといって話を聞いてもらえなかった」
弊所に離婚のご相談に来られたお客様のお言葉です。
お客様からお話を伺うと民法770条の定める離婚事由はなさそうです。確かに、離婚の訴えを提起して離婚することは困難な事案でした。
私も、お客様が離婚の訴えを提起しても勝ち目はないと思いました。
それでも、弊所はそのお客様のご依頼を受けました。
しかし、勝ち目のない離婚の訴えを受任したわけではありません。
お話を詳しく伺うと既にお客様は離婚調停の申立てをされており、相手方の主張する条件とお客様の考える条件が折り合っていないという状況でした。
その条件の内容や現在の生活状況等を検討した結果、弊所では、調停における交渉の進め方しだいで十分に調停離婚を成立させることが可能であると判断し、離婚調停について代理人となることを受任しました。
経験の少ない私にはまだ調停の結果を予測することは容易ではありませんが、担当弁護士は調停成立について自信をもって受任しました。なぜなら、弊所は離婚事件の取り扱い件数が非常に多いため、必然的に弁護士が多くの離婚事件を経験しており、法的理屈だけでなく経験から現実的な離婚調停の結果をある程度予測できるからです。
このような判断ができたのは、裁判離婚が難しいとしても、他の方法によってお客様の希望に沿う結果を得るために、詳しくお話を伺ったからです。
当たり前のことですが、離婚を希望している方は裁判離婚を希望しているわけではありません。裁判離婚は離婚するための手段であって目的ではありません。裁判離婚の見込みがないから話を聞かないのではなく、他の方法によって、お客様の希望に沿う結果を得るためには、むしろ、より詳しく話を聞くことが重要であると考えております。
まだ、調停の結果はでていませんが、現時点でも、詳しくお話を伺って受任をしたことで良かったことがあります。
それは、お客様が非常に不利な条件で離婚調停を成立させることを回避できたことです。
離婚が希望なのだから不利な条件でも離婚できればよいと思われるかもしれません。
しかし、調停が成立した場合には、調停調書の記載は、訴訟事項については確定判決と同一の効力を有し、乙類審判事項については、確定した審判と同一の効力を有します(家事審判法21条)。
そのため、離婚調停において、非常に高額な養育費の支払いや財産分与についての合意をした場合には、合意内容が履行できなくなると強制執行されることになります。
しかも、強制執行する場合、給与債権は4分の1までしか差押えできないのが原則ですが(民事執行法152条1項)、請求債権が扶養義務等債権の場合には給与債権の2分の1までの差押えが認められています(民事執行法152条3項)。そのため、非常に不利な条件で調停離婚を成立させると、離婚後の生活が立ち行かなくなる危険があります。
今回は、お客様から詳しくお話を伺ったことで、幸いにも、非常に不利な条件で調停離婚を成立させることを回避できました。
これだけでも、わざわざ遠くから足を運んでいただいた労に報いることができたと思っております。