通常、面接交渉(面会交流)の調停は、子どもに会えない親が、子どもを実際に養育している親を相手方として申し立てるものだと認識されています。

 しかし、この調停・審判は子どもを養育している親が、養育していない方の親に対して、面接交渉を禁止することを求めることもできます。横浜家庭裁判所相模原支部平成18年3月9日の審判は、まさにそのような調停・審判の利用法を認めたものです。ちょっと長いのですが引用してみましょう。

 申立人と相手方は前件調停において毎月1回の面接交渉を認める旨の合意を成立させているものであるが、家庭裁判所は家事審判法9条1項乙類4号所定の「子の監護に関する処分」として面接交渉権について従前成立した調停の調停条項の変更を含めて必要な審判をすることができるところ、面接交渉の可否、方法や内容は子の福祉という観点に立って子の監護のために必要かどうか、相当かどうかということから決せられるべきものである。そうして、上記事実によれば・・・(中略)こうした背信的な行動を重ねる相手方には今後ルールを守って事件本人らと面接交渉をしたり、事件本人らの心情や生活状況に配慮した適切な面接交渉を実施することを期待することは困難であって、こうした状況の下で相手方の面接交渉を許容することは事件本人らの福祉に適合しないといわざるをえず、相手方が実母として強く面接交渉をすることを望んでいることを十分考慮しても、全面的に面接交渉を禁止することもやむをえないと認められる

 これを読んで、「じゃあ、私も調停を申し立ててみよう!」と思ったあなた、ちょっと待って下さいね。面接交渉権は一応権利ですから、よほどのことがないと禁止するなんてことにはならないのです。この相模原支部の審判は、まさに「よほどのこと」があった事案で・・・さきほどの引用文中、(中略)とした部分は以下の通りです。

 相手方は前件調停成立後まもなくから申立人に無断で事件本人らと会い、そのため、申立人をして履行勧告の申出を余儀なくさせ、申立人による本件調停事件の申立に至らせたのち、本件調停が係属中にもかかわらず、事件本人Cの下校途中を待ち伏せたり、幼稚園に通う同Dに申立人に無断で会いに行くなどし、調停不成立の審判移行後にも会いに行くだけなら申立人に無断でも良いだろうとの勝手な解釈のもと、審判移行後僅か2日後からしばしば事件本人Dの通う幼稚園に行って声を掛けたり、事件本人Cの通う小学校に行って声を掛けたりしたうえ、さらに自分勝手な行動を続け、申立人に無断で事件本人Dを2時間位連れ回し、未成年者誘拐容疑で逮捕されるに至った

 ね、「よほどのこと」でしょう? もっとも、このレベルじゃなければ面接交渉禁止を求めてはいけない、ということもなくて、面接交渉権を濫用して子どもたちを振り回すようなことをされたら是非検討してください。

 事実、過去に面接交渉調停を申立てて、面接交渉の禁止を求めたことがあります。上の相模原支部の事案ほどひどくはないのですが、面接交渉の取り決めが調停調書になっていることをカサにきた元妻が・・・まあ、いろいろあって、元夫(依頼者で親権者)の再婚相手が子どもに対する不信感と元妻に対する恐怖心を持ってしまい、このままでは離婚の危機だというのです。この事案は複雑なのですが長くなるので詳細は省略するとして、とにかく依頼者の家庭不和の元凶が元妻の面接交渉にあるのは間違いありません。それじゃあ、ということで面接交渉禁止を求めて調停を申し立ててみました。

 「審判になってもいい!」と思って申し立てたら、相手方が「もう裁判所に来るのはイヤだ」とか言って(笑)2回目くらいで、「当分の間、面接交渉をしない」なんて調停が成立してしまいました。「当分の間」というのが漠然としていて恐ろしいのですが、しばらくして依頼者に聞いてみたら、「(元妻は)会わせろとも何も言ってこないですね。大人しくなりました。」とのこと。

 面接交渉で「よほどのこと」があって「本当に」お困りのかたは、一度ご検討を。