前回まで、家事調停事件・審判事件の中味について説明しました。今回は、それら調停ないし審判が成立した後の話をしてみようと思います。

 調停も審判もその内容で確定すれば、確定判決と同様の拘束力を持つことは、前々回に触れました(家事審判法21条1項、25条3項)。

 しかし、それでもう安心かというとそうでもありません。相手方が調停、審判の内容を素直に実行しない事態も考えられるからです。

 そんなときは、相手方に対し義務を履行するよう家庭裁判所から勧告することを申出ることができます(家事審判法15条の5、25条の2)。もっとも、家庭裁判所ならどこでもよいわけではなく、調停ないし審判をした家庭裁判所に限定されます(家事審判規則143条の2第1項第2項)。申出は、書面、口頭、電話等いずれの方法でも構わないとされており、費用もかからないため、手軽といえます。裁判所は、申出を受けると、通常、家庭裁判所調査官が調査の上、書面ないし電話で勧告することになります(家事審判規則143条の4)。

 ただ、履行勧告には、これに従わなくとも、相手方に制裁を加える規定がありません。

 そこで、養育費や婚姻費用の支払いといった金銭の支払いその他財産上の給付を目的とした義務の不履行に関しては、相手方に対し義務を履行するよう家庭裁判所から命令することを申出ることができます(家事審判法15条の6、25条の2)。この場合も調停ないし審判をした家庭裁判所に対して行います(家事審判規則143条の5)。履行命令が出されると、正当な理由なく相手方が従わない場合、10万円以下の過料に処せられます(家事審判法28条1項2項)。

 では、履行命令をもってしても、相手方が義務を履行しない場合はどうしましょう。

そのときは、民事事件等と同様、もう強制執行をしていくより他ありません。

 履行命令を発しうるような金銭の支払いその他財産上の給付を目的とした義務の場合、相手方の財産を直接差し押さえることができます(直接強制)。相手方に不動産等めぼしい財産がない場合、職場さえ明らかなら、給料債権を差し押さえる方法が効果的です。

 他方、子供との面会交流の義務不履行のように、財産上の給付を目的としない義務の場合、一定期間内に履行しなければ間接強制金を課すという決定をすることで相手方に心理的圧迫を加える方法をとることができます(間接強制)。ただ、間接強制の決定が出てもなお、相手方が義務を履行しなければ、間接強制金の支払いを得るために、さらに別個の差し押さえ手続(直接強制)をとる必要が出てくるのです。