前回は、家事事件のうち、主に家事審判事件についての説明をしました。今回は、家事調停事件についてのお話しをします。

 家事調停事件には、1)乙類事件(家事審判法9条1項)についての調停事件、2)一般調停事件、3)特殊調停事件の3つがあります。

 このうち、1)乙類事件の調停事件に関しては、前回説明したように、当事者が調停申立と審判申立の何れかを自由に選択でき、調停不成立の場合、自動的に審判手続に移行するという特徴がありました(家事審判法26条1項等)。

 これに対し、2)一般調停事件及び3)特殊調停事件は、当事者が裁判所に申立てる場合、何よりもまず、調停申立をしなければなりません。この建前は、手続上、必ず調停を前に置くという意味で調停前置主義と呼ばれます(家事審判法18条1項)。

 そして、これらの事件について、調停が不成立となった場合、乙類事件の調停事件と異なり、自動的に審判手続に移行することはありません。些細な点で調停の合意が成立しないにすぎないときは、裁判所が調停に代わる審判をする場合も稀にあります(家事審判法24条1項)。ただし、それも上記2)一般調停事件のときのみであり、上記3)特殊調停事件については、原則どおり、調停不成立のまま手続は終了します。そして、自動的に審判手続に移らない以上、当事者は、そのまま放置すれば調停申立前と何も変わらないため、何らかの形で紛争に決着を付けたい場合、人事訴訟や民事訴訟を起こしていかねばなりません。

 次に、一般調停事件とはどのようなものを指すのかというと、通説的理解では、親族又はこれに準ずる者の間の紛争であり、人間関係調整の余地があるものとされています。簡単に言えば、家庭に関する事件であって、後述する特殊調停事件に属さないものです。離婚事件や離縁事件などはここに分類されます。

 そして、特殊調停事件とは、私人による自由処分が許されない事項を決める事件であり、それゆえ、対象事項に関し、当事者間の合意が成立しても、調停を成立させることができません。したがって、その場合でも、裁判所は、必要な事実調査をし、調停委員の意見を聴いた上で、合意に相当する審判をしなければならないのです(家事審判法23条1項)。もっとも、上記裁判所の事実調査は、厳格な証拠調のような手続が予定されているわけではなく、家事審判官による審問等で足りる場合が多いとされています。

 なお、特殊調停事件は、当事者間の合意があっても調停を成立させることができないのに、なぜに調停前置主義がとられるのかと思うかもしれません。しかし、家庭に関する事件においては、話し合っているうちに、対象事項以外で合意が成立することもあり、その場合は対象事項以外の点に関し、調停が成立しうるのです。

 具体的に特殊調停事件に分類されるものには、婚姻・離婚の無効又は取消、養子縁組・離縁の無効又は取消、認知、認知の無効又は取消、嫡出推定重複の場合の父の決定、嫡出否認又は身分関係存否の確定があります(家事審判法23条1項2項)。