前回、婚姻関係の破綻及びその程度が婚姻費用の分担額に影響を与えるかについてご説明しました。
(前回の記事はこちら:婚姻関係が破綻しているのに婚姻費用を払わないといけないの?)
今回は、離婚や別居の原因となった事情が婚姻費用分担に影響を与えるかについてご説明します。離婚の原因としては、一方配偶者の不貞、DVなど様々な事情があります。このような離婚原因を作った配偶者を「有責配偶者」といいます。
有責配偶者の相手方配偶者からのご相談をお受けする際に、しばしば聞かれるのが、「相手のせいで離婚の問題となり、別居しているのに、婚姻費用を支払わなければならないのですか?」という点です。
この点については、前回の婚姻の破綻及びその程度とは異なり、「有責性」については、婚姻費用の減額及び免除の理由となしうるとする裁判例が多くみられます。 これは、夫婦の相互扶助義務に違反した配偶者が、自らはその義務を怠りながら、他方にその義務の履行を求めるのは信義則に反するという観点からです。簡単にいうと、自分のせいで別居することになったのに、通常と同じように婚姻費用を支払えというのは厚かましいということです。
したがって、婚姻関係の破綻や別居について専ら又は主として責任がある配偶者が、自らの婚姻費用の分担を求めるのは信義則違反となり、責任の程度により、その分担請求は全く認められないか、あるいは減額される可能性があるということになります。
例えば、福岡高裁宮崎支決平成17年3月15日は、
「妻は、有責配偶者(繰り返し不貞のあった事案)であり、その妻から婚姻関係が破綻したものとして夫に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは、…婚姻共同生活が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助義務の義務が喪失したことを自認することに他ならないのであるから、このような妻から夫に対して、婚姻費用の分担を求めることは、信義則に照らして許されない」
としています。
このほか、「夫婦の破綻について責任の大きい当事者が他方に対して婚姻費用の分担を求めることは、信義則上認められるものではない」とする裁判例や、「別居中の夫婦間の婚姻費用分担額は、義務者において、いわゆる生活保持義務を負担していることを原則として算定されるものであるが、当該別居に至った原因が、もっぱらあるいは主として分担を求める権利者に存する場合には、信義則上、上記義務は軽減され」るとする裁判例があります。
不貞やDV等以外で夫婦関係が破綻に至る場合、一方の配偶者「のみ」に原因があるケースは実はまれであり、法的な責任のレベルに達するかどうかは別として、往々にして双方に何らかの事情があります。
逆に不貞やDV等の場合には、一方配偶者の有責性が明確になりやすく、婚姻費用の減額等を認めた多くの裁判例が不貞の事案であるのは、こうした事情が背景にあるものと思われます。
ただ、婚姻費用分担請求が信義則違反あるいは権利濫用となるような場合でも、請求者側が養育している未成熟子がある場合、その監護費用相当額まで支払わないとすることはできないのが原則です。夫婦間の争いと子供とは通常別の問題だからです。
なお、婚姻費用分担の審判は、迅速性を旨とする手続であり、証拠を精密に審理して判断を行うというような手続ではありません。
したがって、上記のような減額や免除が認められるためには、相当程度有責性が明確であるといえるようなケースであることが必要と思われます。
有責性がありそうだが証拠を精査しないとはっきりとはわからないというような事案では、結局その解決は離婚訴訟の審理を経て、最終的に財産分与などにおいて清算するという形で処理されることが多くなると思われます。