今回は婚約の成立についてお話する予定でしたが、予定を変更して同棲関係の破棄についてお話します。
前回お話したように、婚約破棄については法的な保護がありえます。では、婚約までは成立していないとしても、同棲関係がある場合に、同棲関係が一方的に破棄された場合、法的に保護されることはあるのでしょうか。具体的には、同棲関係の破棄を理由に不法行為にもとづいて慰謝料請求ができるのでしょうか。
裁判例には、同棲関係であっても法的に保護されるとしたものがあります。今回は、東京地判平成18年1月12日の事案について紹介します。
この事案は、交際後約2カ月経過した後、女性がそれまで居住していたマンションを引き払って男性のもとに転居し生活を共にするようになり、互いの両親の公認を得た上で家族ぐるみで付き合い、海外ウェディングの説明書を取り寄せたり、歯科医院を開業するための準備をしたりして円満な同棲生活をしていたところ、同棲から約3か月後に男性が突然別れを告げて同棲関係が解消されたというものです。男性には、既に破綻状態にある妻がおり、離婚問題で思い悩んでいました。
裁判所は、女性側に一方的な帰責性があったわけではない以上、その同棲関係を解消しようとする男性は、女性の了解を得て円満な同棲関係の解消を図ることができるよう努力すべきであったのに、その解消について女性と十分な話し合いの機会を持つなどの努力をせず、突然、一方的に同棲関係の破棄を申し入れており、女性に癒しがたい精神的苦痛を与えたとして不法行為に当たるとしました。
どのような同棲関係であってもその破棄について法的に保護されるというわけではないと考えられますが、今回紹介した事例において、裁判所は、上記のような交際の様子から、単なる一対一の男女関係とはその性質を異にする交際であったといえること、交際当時の原告の年齢が34歳ということもあって、結婚に対して高い期待を抱いていたことがうかがわれることなどを考慮して、法的保護に値する同棲関係であるとしました。
結婚前の男女関係において、その関係解消において損害賠償を請求するにあたっては、必ずしも婚約の成立が認められなければならないというわけではないということですね。