今回は、婚約に関連したお話します。

 結婚に至る過程で、婚約指輪を贈ったり、プロポーズの言葉があったり、というのはよくあることですが、どのような過程を経て結婚をしたかというのは各自様々だと思います。これが婚約だという明確な事情があった方も、婚約というものがあったのかどうかといううちに結婚をしたという方もいらっしゃるかと思います。

 では、そもそも婚約とはどのような事情があった場合に成立するのでしょうか。もう少し考えてみると、例えば相手がすでに結婚している場合でも婚約は成立するのでしょうか。

 そもそも婚約とは何かといえば、将来婚姻することを約する契約です。契約ですから、婚約することによって、相手方に対し「婚姻せよ」と求める権利を取得します。ですから、相手方が婚約をしないというのであれば、まず、婚約にもとづいて婚姻の履行を求めることができます。婚姻の履行を求めるために裁判所の手続きを使うとすれば、家事調停として婚姻の履行を求める調停を申し立てることはできます。

 しかし、婚姻は、当事者の意思によってのみなされるものですから、相手を婚姻させるよう強制することはできません。そこで、婚姻の履行請求という形で訴訟を起こすことはできませんし、婚姻の履行を求めて強制執行をすることもできません。相手が断じて婚姻をしないというのであれば、契約の債務不履行として、財産的な損害と精神的な損害について損害賠償請求を考えるということになります。よく、婚約を期に、婚約相手の勤務先の近くに引っ越しをする等のため、退職をしたというような事案を見かけますが、婚姻と退職との間の因果関係が明確であれば、退職しなければ得られたであろう利益について請求することも考えられます。

 もっとも、婚約が成立した後に破棄されれば損害賠償請求が必ず認められるというものではなく、破棄することに正当事由があれば、認められないということになります。

 正当事由とは認められないと考えられるのは、例えば、婚約後に相手が第三者と男女関係をもった、相手が暴力を奮う、婚姻生活を維持できないような莫大な借金をかかえていることが発覚した、婚約前に相手の宗教について知っていたのに婚約後に改宗しないことを理由に破棄した等というものがあります。

 逆に、正当事由が認められたものに、相手の性的不能(高松高裁昭和46年9月22日判タ270号257頁)等があります。

 婚約後、相手と一緒にいるうちに自分と合わない相手方の性格が目につくようになったというような性格の不一致の場合は、交際中に相手の性格をある程度は把握して婚約までしたのだから、簡単には正当事由とは認められないようです。裁判例では、婚約成立までの約2年半の間に肉体関係を持った交際をし、結納も取り交わして婚約したのに、約2カ月で性格の不一致に不安を感じて婚約を破棄した事例について、婚約破棄の責任を免れさせるものではないとしたものがあります(昭和43年3月30日判タ224号250頁)。

 もっとも、今後の婚姻生活を維持できないほどの性格の不一致があると認められるようなものであれば、正当事由があると認められる場合もあるようです。

 今回は、婚約が破棄された場合についてお話しましたが、そもそも婚約が成立していなければ婚約の不履行に基づく損害賠償請求はできません。次回は、そもそもどのような事情で婚約の成立が認められるのかについてお話したいと思います。