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原則として、損害賠償請求ができるのは、交通事故と相当因果関係が認められる損害に限られます。
旅行をキャンセルすることになった損害賠償として、キャンセル料の賠償を認めた裁判例はありますが、最終的には、キャンセルの必要性といった、因果関係の立証がポイントになります。

1 交通事故における損害賠償

 交通事故が発生した場合、被害者は、加害者に対して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償の請求ができますが、ここでいう「損害」としてどこまで請求できるでしょうか。

 原則として、賠償が認められる損害は、交通事故との間に、社会通念上、相当因果関係を有すると言える損害に限られます。
 本来は、交通事故がなければ生じなかった損害の全てを賠償すべきであるとも思えますが、このように考えると、損害賠償の範囲があまりにも拡大しすぎてしまうおそれがあります。そのため、交通事故と「相当な」因果関係を有する損害に限って賠償の対象としています。

2 旅行に関する損害賠償

 では、本件において、旅行のキャンセルをした場合、どこまでが相当因果関係を有すると言えるでしょうか。

 旅行をキャンセルした場合の損害として、まずはキャンセル料が挙げられると思います。
 交通事故によって旅行へ行くことができなくなり、キャンセルしたことでキャンセル料という出費が発生したのだとすれば、これは交通事故との相当因果関係が認められそうです。
 裁判例でも、東京地裁平成23年12月26日判決のように、旅行のキャンセル料を損害として認めた例があります。

 もっとも、キャンセル料が常に認められる訳ではありません。例えば、「本当に旅行をキャンセルしなければならない程の症状だったのか」という点が指摘され、相当因果関係が認められない可能性があります。
 そのため、症状の重さや、予定していた旅行の行程等を綿密に立証し、交通事故と因果関係があることを説明する必要があります。
 先の判例では、被害者の怪我が靱帯断裂や骨折などの重いものであることや、旅行先が海外であること、実際に旅行代金の一部しか返金されなかったことを立証できたこと等が、キャンセル料の賠償を認めた理由になったと考えられますが、本件の場合、症状が捻挫のため、旅行の内容によっては、キャンセルの必要まではなかったと判断されてしまう可能性も考えられます。

 他にも、楽しみにしていた旅行であれば、これがキャンセルになってしまったショックも大きいでしょう。そうすると、旅行がキャンセルになり、精神的苦痛を被ったことを理由に慰謝料の請求をすることが考えられますが、基本的には難しいでしょう。