M&Aの実行前の法務DDにおいては、リスク事項の発見は非常に重要な課題でありますが、対象会社が取引価格に大きな影響を与えるような金融取引を行っている場合があります。

 かつて、銀行や証券会社においては、デリバティブ取引などの勧誘が盛んに行われ、多くの企業に対して融資と合わせて、金融商品の取引が勧められていました。

 確かに、輸出入を行うような企業であれば金利スワップの取引などが為替変動のリスクヘッジとして機能することもありますが、不動産業界においては多くの場合は投機目的であることが実情です。

 銀行からの融資などと同時にデリバティブ取引が実行されている場合には、貸付金のほとんどが金融商品に費消されていることもあるうえ、損失が生じる場合には、貸付金額を超過するようなケースもあります。

 デリバティブ取引を行っていることは決算書等から容易に発覚しますが、決算書の記載からはどの程度の利益又は損失が生じているのかは分かりません。利益又は損失の規模を確定させるためには、デリバティブ取引の契約書を確認して、いくつの基本取引が行われており、それぞれの現時点において解約した場合の損失額の確定を取引先へ照会する必要があります。

 その際には、これまでに生じた損失に加えて、途中解約の違約金が上乗せされることが一般的です。取引規模にもよりますが、数億円という規模での損失が生じていることもさほど珍しくありません。

 それでは、損失額をそのまま受け入れなければならないかというと必ずしもそうとは言えません。利益を生じさせることもありますが損失の規模も莫大である金融商品については、金融商品を取り扱う企業においても、高度な説明義務が課されることになっていますが、説明義務が尽くされていない場合には、損害賠償請求の対象となりえます。そのため、金融ADRや裁判手続を利用しながら、損失額の減額又は返還等を求める方法を検討することとなります。

 しかしながら、これらの手続きには時間が必要であるため、M&Aの実行時点までに決着をつけることは困難です。そこで、実行時においては損失額を含めて、取引実行額を決定するか、それとも金融ADRの結果等が出る時点において、株式譲渡実行金額の変動を予定して条件等を定めておくなど、デリバティブ取引による損失を一方的に被ることの内容に十分に考慮して、契約条件を定めていく必要があると考えられます。