少子高齢化に加え、中型免許制度の導入により、ドライバー不足に拍車がかかっており、昨今では、ドライバーの確保のため、現行の普通免許さえあれば採用し、実務経験を積ませながら中型免許の取得を金銭的にサポートするといった企業も増えているようです。

 一般的に、企業が教育研修費用の支援をすることはよくあることですが、その際、せっかく技能を習得したのに直ちに退職されては困るため、労働者が一定期間勤務した場合には、当該費用の返還を減免するが、中途で退職することになれば、企業が当該費用の返還を求めることができるといった内容の合意をすることがあります。

 しかし、労働基準法は、違約金・損害賠償の予定を禁止しており(同法16条)、労働者の企業への拘束を禁止しています。そのため、上記のような返還条件付教育研修費の貸与がこれらの定めに反し、無効(同法13条)とならないかが問題となります。

 参考となる裁判例としては、大阪高判平成22年4月22日が挙げられます。タクシー会社(以下、「Y」といいます。)が、退職した従業員ら(以下、「Xら」といいます。)に対して、800日の乗務完了を返還義務免除の条件として貸し付けた2種免許取得のための自動車教習所の授業料等の返還義務の有無が争点となった事案です。裁判所は、教習所で受講するか否かはXらの自由意思に委ねられ、Yの指揮監督下にもないから業務とはいえず、また、2種免許取得は固有の資格としてXらの利益にもなることであるから、本来Xらが負担すべき費用であって、Yが消費貸借の対象とすることも許され、労働契約法16条の違反はないと判断しました。

 判断のポイントは、業務から独立したものであって本来本人が費用を負担すべき技能取得であるか否か、労働者にとって不当な拘束といえるか否かであると思われます。

 これを踏まえて、企業が実務上とるべき具体的な注意点はどのようなものでしょうか。

 まずは、教育研修が業務とは独立したものであることを明らかにする必要があります。研修を受けるか否かや研修先を労働者に自主的に選択させるという制度とし、この内容を回覧等労働者に周知する方法などで明らかにしておくとよいでしょう。

 次に、貸付金額、返済方法、減免条件などについて労働者を不当に拘束しない程度に合理的な範囲に設定して明確にし、金銭消費貸借契約あるいは立替払契約など、労働契約とは別個の契約であることを明確にする必要があります。運用上も、あくまで貸金として扱うべきであり、給与明細書に記載するなど賃金ともとれるような扱いは避けるべきでしょう。

 以上の諸点に注意すれば、冒頭で述べたドライバーの中型免許取得費用についても、返還が認められないと判断されるリスクは軽減されるのではないかと思われます。