平成18年4月1日から労働審判制度が開始されました。実務上、同制度により、労働者側からの残業代請求が行われることが多くなり、会社としては残業代の支払いリスクを負いやすくなったといえます。
労働審判制度とは、個々の労働者と事業主(会社)との間に生じた労働関係に関する紛争を、裁判所において、原則として3回以内の期日で、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度です。期日では、裁判官である労働審判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名の計3名が審理をし、適宜調停を試み、調停がまとまらなければ、事案の実情に応じた解決をするための判断(労働審判)をします。労働審判に対して当事者より異議申立てがあれば、訴訟に移行することになります。
労働審判は、その迅速性という制度趣旨から、原則として申立てがなされた日から40日以内の日に第1回期日が指定されます。このため、申立ての相手方(主に使用者側)は、答弁書作成の準備を十分に行うことができないという事態に陥りがちです。しかし、労働審判は第1回期日で争点が形成され、第1回期日において審判官らの心証も固まってしまう傾向にあるため、当事者にとっては、第1回期日までが勝負の場となります。
最近では、トラックドライバーとして勤務した男性が、毎朝5時から出勤し、帰庫するのは午後8時ころであったことを主張して労働審判を申し立て、会社に対して残業代金260万円を請求したという事案に接する機会がありました。本事案では、申立人側はタイムカードを撮影し、過去の給与明細を保存するなどしており、万全の態勢で準備を整えていました。これに対して、会社側は主張立証が不足しており、対応が後手に回ってしまっている印象を受けました。結局、第1回期日では会社側に残業代支払義務があることが前提となってしまい、次回期日において金150万円で調停が成立しました。
このように労働審判制度は労働者側としては迅速な解決が図ることができるというメリットがある反面、会社にとっては、一度審判を申し立てられてしまうと、主張立証までの時間がタイトとなり、証拠や対応次第では争うことができるはずの残業代等についてまで支払義務を負ってしまう可能性があります。会社側としては、残業代請求があったときに迅速に対応できるような体制を整える等、労働審判に備える必要性が高まっているといえるでしょう。