今回は、不動産事業におけるM&Aにおいても重要である人事に関する法務DDの留意点をお伝えしようと思います。
多くの友好的なM&Aは、雇用関係を維持することを前提として行われています。売り手となる事業会社としても、従業員の雇用を維持するために買い手を探している場合も多く、非常に関心を持たれている事項です。
一方で、雇用関係を維持することは、他社の人事を引き継ぎ、さらには企業文化も維持されることにつながり、買い手となる事業会社としても関心が強い事項となります。
法的な観点からすると、雇用関係のほとんどは、労働契約に基づいて創出されており、雇用契約書を確認することが第一となります。しかしながら、企業全体の労務に関するルールは就業規則や労働協約により規律されている部分も多いため、当然就業規則や労働協約の確認も欠かすことはできません。
就業規則に関しては、会社としての歴史が長ければ長いほど複数の就業規則が存在していることがあり、どの就業規則が法的に有効な就業規則であるか調査が必要な場合もあります。就業規則の変更を行うためには、原則として、労働者の同意が必要であり、同意がない場合には、変更の合理性があることを前提として、労働者の過半数の代表者から意見を聴取したうえで、労働者に周知されていたということが必要となりますが、これが実行されていたのか否かは、当時の状況が記録されていない限り知ることができません。
有効な就業規則を特定できないような場合には、最新の就業規則について、労働者全員の同意を得て記録しておいたり、就業規則に関する労働者への説明会を行ったうえで、過半数代表者からの意見を聴取し、労働者へ周知したりすることをもって、最新の就業規則が有効となりうるように対策を行う必要があります。
また、近年における人事関係は、直接雇用のほか、出向、派遣の違いや、請負又は業務委託といった形式に基づいて業務を行っている人材もいます。直接雇用以外の雇用形態である場合には、労働者派遣法や職業安定法に抵触するような実態がないか慎重に見極める必要があります。これらの法律については、違反の内容によっては、刑罰が定められている場合もあるため、違反の事実がないか否か、これまでに労働基準監督署から行政指導などを受けたことがないかといった点を調査していくことになります。
人事関係については、今後の企業活動に大きな影響を与えるうえ、労働関係の法律が近年頻繁に改正されていることもあり、雇用の時期や現時点における最新の法令を参照しながら、法務上の問題点がないか慎重に探究する必要があります。