Ⅱ 執行役員の労働者性

 では、「執行役員」が労働基準法上の「労働者」に該当するか否かの判断基準はどこにあるのでしょうか。

 労働基準法2条1項において、労働者とは「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義されているところ、具体的には、使用者と同視できるか、使用者の指揮命令下にあるか否かという観点から判断されることになります。

 この点、執行役員の労働者性に関する裁判例としては、東京地判平成23年5月19日労判1034号62頁が存在します。

  当該事例においては、Y社の執行役員兼部長の地位にあったXの労働者性が争われ、執行役員が経営者と同視できる程度の経営者性を有していたかが争われた事例であり、Y社の執行役員規定には以下のような規定が存在しました。

① 執行役は「取締役会で選任された会社の業務の執行を担当する取締役でない者をいう」
② 「取締役会は選任した執行役員に対して、取締役会が決定する会社の業務の執行を委任する」
③ 「従業員である者が執行役員に選任されたときは、前条の就任日の前日をもって従業員としての身分を失い退職とし、社員の『退職年金規定』により退職金を支給する。ただし、労働基準法、社会保険法その他法令の適用については各法律の定めるところによる。」
④ 「解任された執行役員は、原則として従業員の地位を失うものとする」
⑤ 「執行役員に関する事項については、……本規定に従うものとする」「就業規則は特にこの規定で準用する場合を除き、執行役員には適用されないものとする」
⑥ 「執行役員の報酬の額または賞与の額は、取締役会の決議による。」
⑦ 「執行役員が会社を退職するときは、その業務上の功労により、別に定める『役員退職慰労金支給規定』に従って退職慰労金を支給する」

 以上のような規定を見ると、Y社の執行役員は③、④におけるように従業員の地位から退職して、⑤から⑦のように従業員とは区別された待遇によって扱われているように思えますが、③において労働基準法等の適用が示唆されている点や、④において「原則として」という文言が付されている点から、執行役員が労働者となる可能性を想定しており、それ以外の規定は従業員との区別は予定されているが、執行役員が使用者と同視できるような経営者性を有していたかは明らかではない、と裁判所は判断しました。